「正直、引退も考えたんです」「“勝てるわけない”と…」パリ五輪で日本勢“過去最高順位”なのに? ハードル女王・福部真子(29歳)が感じたリアル
コーチに「12秒50を切って五輪ファイナルに」
2022年のシーズンを前に、知り合いをたどってコーチを探した。そこで出会ったのが、現在指導する尾﨑雄祐コーチ(30歳)。当時、日本トップクラスの選手を指導したことがなかった尾﨑コーチに対し、福部は初対面でいきなり言った。 「私はパリ五輪で12秒50を切って、ファイナルに進みたい。でも、あれもこれもと無駄なことはしたくない。オリンピックの決勝に進むために何が必要かだけを教えて欲しい」 当時の福部の自己ベストは、13秒13。3年間で0.6秒以上の記録更新を求めるのは、かなりの高い要求だった。 心の中では「否定されるかもな」と思っていた。だが、尾﨑コーチの答えは違った。 「よし、やろう」 その目には、何の迷いもなかった。福部はそう感じた。 コーチを選ぶ上で、福部には複数の条件があった。 ・「1」を聞いたら「10」を返してくれる ・「あれをやれ、これをやれ」と指示するのではなく、提案してくれる ・同じ歩幅で一緒に歩んでくれる(寄り添って指導してくれる) 福部には、指導者との関係性で悩んだ過去がある。その分、求める基準は高かったが、尾﨑コーチはそのどれにも当てはまると思った。 「この人は本気だなって、見たら分かる。ただ強いから教えたいという好奇心ではなく、どうやって私をオリンピックのファイナルで走らせようかと、すぐに頭がシフトしているように見えた」 今までやってこなかったハードルドリルに取り組んだ。本格的なウェートトレーニングも導入した。一冬を越え、迎えた2022年シーズン。快進撃が始まった。 6月の布勢スプリントで、初の12秒台となる12秒93(+1.7)をマーク。米国・オレゴンであった世界陸上への初出場が決まった。準決勝では、日本記録の12秒82(+0.9)。さらに9月の全日本実業団で、12秒73(+1.1)まで記録を伸ばした。 「自分の想像を超えた成績が一気に出てきたので、これは本当にパリの決勝を狙えるなと思いました。特に全日本実業団は『この感じで12秒73か。だったら12秒5はいける』と」 だが、ここでアクシデントが襲う。2023年2月ごろから、体調不良に陥り始めた。最初はストレスだと感じていたが、後に、別の理由に気がついた。 子宮に黄体ホルモンを入れ、生理不順をコントロールするために装着していた器具が、子宮に誤った形で突き刺さっていた。それが心身の不調を招き、体重が急激に増減した。 原因に気がついたのは、ブダペスト世界陸上を逃した2023年シーズンの後。この年の11月に緊急手術をした。正常な体調を取り戻したのは、パリ五輪シーズンが始まる直前だった。 2024年はシーズン序盤こそタイムが伸び悩んだが、6月の日本選手権準決勝でパリ五輪の参加標準記録を突破した。
【関連記事】
- 【つづき/#2を読む】高校で全国3連覇→大学でスランプに…「勝つことへの“怖さ”があったんです」ハードル女王・福部真子(29歳)はなぜ“消えた天才”にならなかった?
- 【つづき/#3を読む】「細くて速いなら、私もそっちが良い(笑)。でも…」100mハードル日本記録・福部真子(29歳)が語る未来図「“嫌だ”を超えることが大事」
- 【写真】「こ、これが体脂肪7%…!」“165cmのハードル女王”福部真子(29歳)の超バッキバキのフィジカルとモデル顔負けの長~い足。インターハイ3連覇の高校時代や、パリ五輪でのレースも写真で見る(50枚超)
- 【あわせて読む】夫は「成績が落ちたらお前のせいになる」と言われ…23歳“全盛期”に電撃引退→結婚の女子陸上・寺田明日香が8年後に「母で五輪出場」までの波乱万丈
- 【こちらも読む】「40人中39位」でパリ五輪に滑り込み…女子ハードル田中佑美(25歳)が振り返る“大舞台までの苦悩”「ギリギリの出場…怖気づく場面もありました」