反・中国共産党の勝利も習近平の中台統一の野望は加速!! これから中国が台湾に仕掛ける苛烈いやがらせの中身
■「第三極」を取り込む? ネットと並行して現実社会でも工作は展開されている。 1月9日、台湾の司法当局は、基隆市の里長(町内会長)が中国山東省煙台市の工作機関の招きを受けて、ほかの里長ら33人を連れて5泊6日の中国旅行接待を受けたとして摘発を行なっている。 ほかにも昨年11月以降、台北市・台中市・高雄市・宜蘭県などの里長ら160人以上が中国各地の工作機関の招待を受けたとされ、台湾当局の捜査対象になっている。 台湾は地元のコミュニティが強く、里長を取り込めば地域単位で票を固められる(事実、今回の総統選と同日投開票の立法院選では、小選挙区で野党の国民党の勝利が目立った)。地道な方法ながら、世論や集票のキーをピンポイントで取り込む戦略なのだ。 候補者に露骨に浸透する例もある。1月9日には、第2野党・民衆党の桃園地区の元広報担当者で、今回の国会選挙に無所属で立候補していた馬治薇という女性が、中国のインテリジェンス機関の関係者から合計1400万円以上の金銭を受け取ったとして台湾当局に拘束された。 こういった取り込みは、総統選後も続くだろう。 民衆党は19年に結成された政党で、今回の総統選で党首の柯文哲が370万票近くを獲得したほか、立法院選でも躍進。二大政党の議席数がともに過半数に満たなかったことで、キャスティングボートを握ることに成功した「第三極」だ。既存政治の打破を訴え、従来の二大政党の争点だった対中問題には曖昧な態度を取る。 ただ、民衆党は新興政党だけに人材も不足気味。故に問題のある人物でも平気で受け入れかねないワキの甘さがある。中国から見れば格好の工作対象だ。 ほかに中国大陸との融和を主張する第1野党の国民党も、複数の関係者が中国の工作機関との関係を噂されている。
■工作は日本にも...... 中国のこうした工作は、今後は日本に対してもより多く展開される可能性が高い。 従来、中国の対日ネット工作は、日本語の複雑さゆえに投稿文が不自然になるなど、粗雑なものが多かった。だが、生成AIの進歩によって、より自然な文章表現や、画像・動画を用いた情報工作が容易になりつつある。 近年の台湾の例から考えれば、災害の際にデマを流す、政府や自衛隊の対応の不備を過剰に喧伝して国家体制への不信感をあおるといった攻撃手法は十分に想定されるだろう。 今年1月に起きた能登半島地震では、Xにインプレッション稼ぎが目的とみられる不自然なアカウントが大量に出現し、ニセの救援要請が拡散して問題になった。これらは中国の工作アカウントとは限らないが、同様の行為をより組織的に、かつ不自然さがない形で実行すれば、社会混乱を容易に助長できる。 大企業の業績不振や銀行の焦げつきを伝えるニセ情報で経済を混乱させたり、ネット右翼や陰謀論者のような極端な主張を持つ人たちをあおることで日本社会の分断を図る手法も考えられる。 政治家の取り込みも、例えば19年12月、内閣府副大臣を務めた秋元司がカジノを含む統合型リゾート(IR)事業の参入を狙う中国企業から現金を受け取り、逮捕された例がある。当選歴が浅い議員や、人材のチェックが甘い「第三極」の議員らは、台湾のみならず日本でも工作ターゲットとして取り込まれやすい。 基地問題を抱える沖縄県など、日本政府に不信感が強い地域の知識人やマスコミ関係者を中国側が接待し、彼らを通じて現地の反米・反政府感情を増幅させ、中国に好都合な言説を流布させる手法も考えられる。 今回の選挙で台湾が被った、中国による各種の介入工作は、日本にとっても決して対岸の火事ではないはずだ。 取材・文/安田峰俊 写真/共同通信社