BMW『i3』で体感する電気自動車の可能性
6月22日、東京・青海の日本科学未来館で、日本EVクラブ主催の『EV入門塾』が開催された。EV(電気自動車)についての疑問を解決し、次世代車への理解を深めようとする催しで、国内外メーカーの市販EVの試乗もできる。今回は、日産『リーフ』や三菱『アウトランダーPHEV』などの国産車に加え、BMWから発売された『i3(アイスリー)』が試乗車として登場した。 『i3』はBMWが今年から日本でも発売したEVで、カーボン・ファイバー強化樹脂製のボディを採用するなど、従来のガソリン車の常識を覆すチャレンジが注目されている。エコ効率を追求し「155/60R19」という細いのに大きなタイヤを装着しているのも特徴的だ。
EVの“持って生まれた”加速性能
この日の入門塾に参加した関野正幸さん(19)は「ガソリン車より加速が良かった。エンジン車とEVと、どちらを買うか迷っていたけど、やっぱりEVがいいですね」と、EVならではの俊敏な加速に驚いていた。 『i3』の0-100キロ加速性能は7.2秒。エンジン車でいえば2リッター程度のスポーティなモデルに匹敵、あるいは凌駕する。とはいえ『i3』はとりたててスポーティを標榜しているわけではない。モーターには回り始めてすぐに最大トルクを発生する特性があり、市販メーカーが必要十分なモーターを選んで普通に作れば、加速の優れたクルマになってしまうのだ。 もちろん、加速の気持ちよさは日産『リーフ』や三菱の『MiEV』シリーズなど国産EVでも同様に楽しめる。しかも、アクセルを踏み込んでもエンジンが悲鳴のような唸りを上げることはない。音や振動といったストレスはほとんど皆無のままにスムーズな加速を味わえるのは、エンジン車にはないEVならではの大きな魅力といえる。
エンジン車とは“別の乗り物”
さらに、踏み込んだアクセルペダルを緩めるだけでブレーキランプが点灯するほどブレーキがかかり、ワンペダルで速度を制御できるのが『i3』の注目すべき特徴だ。アクセルを緩めた際に、モーターで発電して電池に充電する「回生ブレーキ」を応用した技術だが、ここまで極端に回生ブレーキを効かせる市販EVは今までになく、EVならではのモビリティについての、BMWからの提言と受け取ることができる。 以前、マイナーチェンジ前の日産『リーフ』で富士山の五合目から御殿場まで走ったら、五合目で40%ほどだった電池残量が90%以上にまで回復したことがある。多くの電池を搭載したEVだからこそ、回生ブレーキの恩恵は大きくなる。走るほどにエネルギーが増えていくメーターを見ながら「EVはエンジン車とは別の乗り物なのだ」と実感できた。 『i3』ではワンペダル操作が特徴だが、三菱の『アウトランダーPHEV』には、「B0(ゼロ)」から「B5」まで6段階で回生ブレーキの強さを変えられるパドルシフトが装備されている。エンジン車のシフトダウンのように回生ブレーキを使う感覚が新鮮だし、たとえば、平坦路で前方の信号が赤の時など、回生ブレーキをまったく効かさずに惰性で走りたいケースで「B0」が便利に活用できる。 ちなみに、今回の試乗で試してみたら『i3』でも走行中に「N」レンジにすれば惰性で転がることができた。やや面倒な操作ではあるが、慣れてくれば『i3』ならではの省エネドラテクとして活用できるだろう。 ラジコン車のほとんどやミニ四駆の動力が電気モーターであるように、クルマの構造はエンジンよりもモーターのほうが圧倒的にシンプルで安価になる。ガラケーがスマホに変わったように、エンジン車がEVに置き換わっていくのは、世の中の選択肢を拡大する上でも当然の流れといえるだろう。 痛快な加速や低重心ならではの安定した走り(これも車体下部に電池を大量に搭載したEVの特徴)を、カーボンボディやワンペダル操作といった斬新な提案でパッケージした『i3』は、まさにスマホを日本に普及させた『iPhone』のようなEVともいえる。