BMW『i3』で体感する電気自動車の可能性
EV普及の弱点は充電インフラ?
『i3』の一充電航続距離はカタログスペックで200キロ。バイク用のエンジンを搭載して発電するレンジ・エクステンダーモデルで300キロとされている。きっと読者の多くは「まだまだ短いな」と感じるのだろう。また、一般メディアでは「充電インフラの不備」をEV普及の障壁として挙げる論調がある。 今、日本国内に設置されているEV用の急速充電器は1978台(2014年6月27日現在)で、経済産業省の補助金があってさらに急増を続けている。現状でも、急速充電器から半径50キロの円を赤く塗ると、日本列島はほぼ隙間なく真っ赤に埋まる。 昨年、一充電で120キロしか走れない手作りEVで日本一周する『EVスーパーセブン急速充電の旅』(『THE PAGE』でもレポート)をしてきた経験からいうと、日本の充電インフラは世界一で、すでに十分に整っている。これからさらにEVが増えてくれば「充電渋滞」が起こる懸念もあり、高速道路のSAなど利用頻度の高い場所にはさらに急速充電器の数が増えるのがベターだが、充電インフラをEV普及のネックとして語るのは時代遅れの概念ともいえる。 航続距離も200キロあれば日常生活に支障はない。たとえば、長距離の旅行はEVではなく公共交通機関を利用して現地でレンタカーを借りるといった、年に数日の、ちょっとしたライフスタイルの変化を受け入れれば、ほとんど不便は感じないだろう。EVに乗っていると「いつも電池残量が気になって落ち着かない」という意見も聞くが、それは慣れの問題だ。
EV普及の「本当の弱点」は
2014年初頭には、日産『リーフ』の世界累計販売台数が10万台を超えたと発表された。ハイブリッドのトヨタ『プリウス』も、10万台を超えるまでに5年ほどかかっているから、2010年12月の発売から3年での数字としては評価すべきである。それでも、ちまたでは「EVはなかなか普及しない」と言われている。たしかに、いくつかの車種が発売されても、ハイブリッド車のように世の中全体の雰囲気を変えるまでには至っていない。 では、EVの普及を阻害している最大の理由とは何だろう。EVで日本一周しながらいろんな人と話して痛感したのが「欲しいEV、買えるEVがまだない」ということだ。 『i3』は魅力的だが、ベーシックなモデルの車両本体価格は約500万円。補助金を使ってもオプションなどを装備すれば、しっかり500万円程度の買い物になる。いくら魅力を感じても、多くの人が気軽に買えるクルマではない。『リーフ』や『MiEV』も割高感が否めない。また、車種が少なく、ユーザー好みのデザインを選ぶバリエーションが乏しい(端的にいってしまうと、カッコいいと思えるクルマがない)ことが、EVがなかなか普及しない最大の要因なのである。 EVの価格が高くなるのは、大容量のリチウムイオン二次電池が高価だったからだ。でも、電池技術の進化はめざましく、安いEVを作るための障壁はどんどん低くなっている。たとえば『リーフ』クラスの価格と車格で、300キロ以上の航続距離をもつ、カッコいいEVが続々と発売される時代の到来を待ち望みたい。 (寄本好則/三軒茶屋ファクトリー)