小学生にしてアルコール依存症の祖母の下の世話。モラハラ、暴言、嘲笑に苦しめられたヤングケアラーの過去
本来なら家族に世話をしてもらうはずの年ごろに、介護や看病が必要な家族の世話に追われ、自分の時間が持てず学業や人間関係に影響が出てしまう「ヤングケアラー」が社会問題となっています。 【マンガ】『さよなら毒家族』を最初から読む 先日、アルコール依存症や糖尿病を患う祖母のもとでヤングケアラーとして育ってきた漫画家のゆめのさんが、ご自身の体験をコミックエッセイの形で発表しました。この作品『さよなら毒家族 アルコール依存症の祖母の呪縛から解放されて私を取り戻すまで』は、ゆめのさんの複雑な家庭環境と祖母から受けたモラハラ、そして暗闇のような生活から抜け出して自分の人生を取り戻していく過程が描かれています。 今回は、そんなゆめのさんに作品についてお話をお伺いしました。 ■『さよなら毒家族』あらすじ ゆめのさんの父親は浮気性でギャンブル好き。母親はそんな父親に苦しめられていて、言い争いのときに包丁を持ち出すことすらありました。そんなある日、ゆめのさんを祖母の家に預けた母親は、薬を飲んで自死してしまいます。ゆめのさんは祖父母に引き取られることになりました。 しかし、祖母は以前から重度のアルコール依存症でした。酒を飲むと別人のようになってしまい、ゆめのさんが小学生になる頃には、酔っ払って床で寝たまま粗相をしてしまうこともありました。ゆめのさんは小学生のうちから祖母の世話をするようになり、食事も自分で用意するようになっていきました。 年を重ねるごとに、祖母の言動は酔っていない時もキツくなっていきます。ゆめのさんの洗濯物に「たいして汚れてない、そんなの明日も着られる」と文句を言って突き返したり、「今日はシャワーも風呂もなし、体を洗いたいならそこの公園で洗ってこい」と言い放ったり。たくさんのおかずを作っては無理やりゆめのさんに食べさせた挙げ句、「自分の腹の限界もわからんの」と嘲笑したり…。 ゆめのさんはそんな祖母のモラハラに苦しめられ、小学4年生で授業中に過呼吸になったり、中学生の頃には摂食障害になったり自傷行為をしたりと、ストレスによる症状が現れてきました。一方、祖母はアルコールを一度はやめたものの、口寂しさから甘いものを食べすぎて今度は重度の糖尿病になってしまい、ゆめのさんは祖母の看病と家事に追われます。 やがてゆめのさんは専門学校に進学して絵の勉強を始めましたが、そんなときに祖父は胃がんで入院してしまいました。学校を辞めることになったゆめのさんは、自分の夢を諦めて、入院した祖父の世話と、体の不自由な祖母のサポートをする日々を送るのでした。祖父母の看病をしながら働き始めたものの、仕事のトラブルも重なって今度は強迫性障害になってしまいます。 一時は死ぬことばかりを考えるようになっていたゆめのさんでしたが、結婚して家を出たのをきっかけに、強迫性障害の症状も落ち着き穏やかに暮らせるようになりました。しかしある日、祖母からの電話で家に借金があることを知らされて、ゆめのさんは不安に襲われます……。 ■著者・ゆめのさんインタビュー ──幼い頃から心休まらない生活の中、ゆめのさんはストレスから次第に過呼吸など体にも不調をきたすようになってしまいます。しかしおばあさんはそれを認めずモラハラが常態化していき、摂食障害に……。当時の心境や祖父母への思いを教えてください。 ゆめのさん:当時は祖父母の世間体を大事にする姿勢が何よりも大切だと思い込んでおり、私が体を壊したり心を病んだりしたことは、全て私が弱いから起きたことだと思っておりました。どんな辛いことも私が悪いから起きたことと思い込んで生きていたので、ずっと心がどんよりとしていました。私が一番悪い、私がいけない子なんだと頭で思い込むように努力していましたが、体は言うことを聞いてくれず、それがまた余計にストレスだったと思います。 ──ゆめのさんの病気を認めずにモラハラを続けるおばあさんが変わることはなく、ゆめのさんは結婚して家を離れます。穏やかで優しいご主人につらかった過去の話を聞いてもらえるようになったことは、ひとつの転機だったように思います。当時の状況やお気持ちを教えていただけますでしょうか。 ゆめのさん:夫には、私の過去や家族のことは全て知ってもらわないといけないと思っていました。内緒にして、後から問題が起きても困るので……。私の過去の話を聞いてもらえるだけで充分だと思っていましたが、夫に「あなたの家族はおかしい、あなたは辛いことを経験してきた」と言われて本当にびっくりしました。 当時の私は、確かに辛かったけれどもっと辛い経験をしている人も、もっとひどい虐待を親から受けた人もいるし私など大した経験はしていない、と思っていたので、夫に私の辛さを肯定してもらえて、嬉しくほっとした覚えがあります。 ──ゆめのさんは、おばあさんとの「物理的」な絶縁から「精神的」な絶縁を経て、自身を取り戻していきます。作品を読んでいても夫の「ひろくん」に支えられたところが大きかったように思いましたが、どんなところが助けになりましたか? ゆめのさん:夫は、私が祖母と絶縁する際に不安になり「〇〇したらいいと思う?」「〇〇しようと思うんだけど」と何度も聞いてしまっても「いいんじゃない?」「それでいいと思うよ、ゆめのの好きなようにするのが一番」とネガティブなことは言わず、肯定的なアドバイスをいつもくれたのでとても助かっていました。 ──おばあさんと絶縁して距離をおいていた時、気をつけたことなどありましたら教えてください。 ゆめのさん:物理的に距離が離れても、私の心はずっと祖母に縛られていたままだと気づき、精神的にしっかり距離を置いて絶縁しないと、私は変われないと思いました。ある種の親離れをしなければ、と感じました。 私は0か100かの極端な考えをすることが多いので、祖母と絶縁するなら、たまに連絡したり帰省したり……はきっぱり止めなければいけないと思いました。中途半端に祖母への導線を残すと、頭の隅にずっと祖母が残っている感じがしたからです。祖母のことを少しも考えなくていい環境づくりをしようと心掛けました。 ──最後に、読者のみなさんへ、メッセージをお願いいたします。 ゆめのさん:私のように、子どものころに親から刷り込まれた価値観と、自分の気持ちとのズレに大人になっても苦しんでいる人に、ぜひ読んでもらいたいです。 作品の中で、祖母に囚われている自分を変えると決意してからラストまでの流れがしっかりと私の伝えたいことを盛り込めたと思います。親との関係性に悩んでいる人、親への気持ちに違和感を持っている人にぜひ読んでもらいたいです。 取材=ナツメヤシコ/文=レタスユキ