SMTPとは 【岡嶋教授のデジタル指南】
SMTP(Simple Mail Transfer Protocol)…、うーん、どうなんでしょうね。インターネットのもともとの理念から言えば、そこに参加する人々は積極的な参加主体ですから、こうした技術をよく理解して、何ならSMTPサーバーも自前で用意した上でつなぐのがいいのかもしれません。 近年の小・中・高・大のカリキュラムを見ても、こうした技術を取り上げて、親しませようとしています。 ただ、実態としては、新しいパソコンやスマートフォンを買ってきたときにSMTPの設定をやるかと言えば、やらないと思います。プロバイダーなどが極めて効率的に、自動的に設定してくれます。プロバイダー、頑張ってるなあと思いますが、ヘルプデスクに問い合わせが殺到するよりは、自動で設定してあげるシステムを組み上げる方がずっと楽なので、自分たちのためにやっているとも言えます。 それを、「本来、すべてを利用者がコントロールできるのがインターネットだったのに、プロバイダーが中央集権的な力を手にしてしまった」と捉えるか、「なんでもやってもらえて便利だなあ」と捉えるかは人によると思います。 前振りはこのくらいにして、SMTPの話をしましょう。SMTPはメールの送信プロトコルです。プロトコルというのは通信ルールのことです。共通のルールがあるおかげで、メーカーや国をまたいでもメールやウェブページのやり取りができるわけです。 メールが特徴的なのは、送信用のSMTPと受信用のPOPやIMAPにプロトコルが分かれていることです。普通、こういうのって同梱するじゃないですか。ファイルの受け渡しプロトコルにFTPというのがありますが、送信と受信でプロトコルを分けたりしていません。 これには理由があって、最初はSMTPしかなかったんです。だって、メール送信が満足に機能すれば送ったメールは相手に届くはずですから、「受信」行為をわざわざしなくても、自分のパソコンなりスマホなりにメールは来ているわけです。 インターネットが普及する過程で、そこに接続するマシンはパソコン(スマホの登場はまだ先です)であることが増えていきました。するとパソコンは個人用の機械ですから、大型機のように四六時中電源を入れているわけではなく、送信したのに届かない事態が頻発します。電話と違って相手の都合や時間を気にせず送れるのがメールの利点なのに、「電源入ってるかな?」と配慮するのではそれが失われます。 そこで、メールを専門に扱う、当然24時間働く、メールサーバーが登場しました。誰かが送ったメールは宛先ではなく、その途中にある受信メールサーバーまでSMTPによって送られ、そこに蓄積されます。受信側の人は自分の好きなタイミングで、受信メールサーバーに蓄積されたメールを取りに行きます。ここで使われるのが受信プロトコルのPOPやIMAPというわけです。 SMTPはメールアドレスの形式や、メールに利用できる文字種など、いろいろなことを決めています。その中で、当初定められていなかったのが、送信者の認証機能です。郵便ポストと一緒で、「誰が送ってもいいじゃないか」とかなり大らかな作りでした。しかし、この特性が迷惑メールの温床になってしまったので、POP before SMTPやSMTP-AUTHなどが後から登場し、利用者として登録された人しか送信メールサーバーを利用できなくなりました。 【著者略歴】 岡嶋 裕史(おかじま ゆうし) 中央大学国際情報学部教授/中央大学政策文化総合研究所所長。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「思考からの逃走」「プログラミング/システム」(日本経済新聞出版)、「インターネットというリアル」(ミネルヴァ書房)、「メタバースとは何か」「Web3とは何か」(光文社新書)など。