読書が導く幸せ!?実力で幸せを掴む新しいシンデレラストーリー『本好きの没落令嬢、小説家をお手伝いする。』【書評】
辛い境遇にいた主人公が、とある出会いから幸せを掴むシンデレラストーリーは数多存在します。素敵な男性に一目惚れされて……というのが少女漫画の定番ですが、一目惚れではなく、これまで築き上げてきた努力や才能によって少女が幸せを掴む。そんな物語を読んでみたいと思いませんか? その期待に応えるのが『本好きの没落令嬢、小説家をお手伝いする。』(石井紺/講談社)です。
裕福な家に生まれ、大好きな家族と本に囲まれて育った大の本好き少女・エマは、ある日、火事で両親と家を失い、遠い親戚に引き取られます。しかし、その親戚はエマを邪険に扱い、身の回りの世話をさせては文句ばかり。外出も制限され、「本なんて読んだって一銭にもなりゃしない」と本を買うことも許しません。虐げられた生活の中でしたが、急いで買い出しを済ませて書店に寄ることが唯一の楽しみだったエマ。そこで、人気作家・レオの身の回りの世話をするメイドを探している男性が現れて……。 何日か働いて、その働きぶりで採否を決めると言われたエマはまず夕食作りに取り掛かります。毎日親戚にこき使われつつも、体調などを考えてご飯を作ってきたエマ。そんな相手に対する思いやりがエマを幸せへと導きます。
さらにエマの採用を決定づけたのは、エマの長年の読書体験。レオの小説を偶然目にしたとき、エマは重要なシーンの矛盾に気づき、大幅な書き直しをせずに矛盾を解消する方法を示します。
まさに「一銭にもならない」と言われた読書体験がエマの身を助けた瞬間です。 そもそもメイドの誘いを受けたのは、書店の店主がエマの実情を知り、不憫に感じていたから。エマ自身はいつか店主に追い出されるのではと思いながら立ち読みをしていましたが、そんなエマの様子を見た店主が「好きなだけ本を読めるように」とメイドを探す男性にエマを薦めたのです。私も本が好きなので、この本好き同士の絆にしびれました。 レオの屋敷に来て以降、エマは小さいことでも真剣に取り組み、周りの人を幸せにしていきます。親戚はエマの作った料理を不機嫌な顔で黙々と食べていたのに対し、「生きていてよかった…!」と感動しながら食べるレオ。この描写に、彼女のこれまで蔑ろにされていた、相手を思う心が報われた…!と、こちらも幸せな気持ちになりました。 素敵な男性に愛されるおとぎ話にキュンとしたい日もあれば、これまでの人生で培ってきたものを認めてもらえる物語に背中を押されたい日もあるもの。就職・転職・妊娠子育て……多様な経験を積んできた大人女子にこそ刺さる一冊です。 文=原智香