桐生祥秀「2025年は全試合1着を狙う」東京世界陸上シーズンへ決意「世界と勝負したい」
真冬にしては暖かさも感じる1月5日、陸上短距離の桐生祥秀(29、日本生命)は室内で半袖になり黙々とトレーニングを積んでいた。陸上選手にとっての1年は、シーズンオフが終わった秋頃からすでに始まっている。 「年越しは夜10時には寝てましたね。妻と子どもと滋賀の実家に帰ってゆっくりしました。でも年末年始は休暇というか、積んでいた練習のダメージを取る休養なので。あまり年末年始を過ごしたって感じではないんですよね」 2025年、陸上界にとっては特別なシーズンとなる。世界陸上が東京で9月に開幕。国立競技場に帰ってくるのは34年ぶりで、長嶋茂雄さんが100mを世界新記録で優勝したカール・ルイスに「ヘイ、カール!」と声をかけた1991年大会以来となる。 そんな東京世界陸上出場を目指し、桐生は順調な冬季トレーニングを積んでいた。 「去年は2月の室内試合から始動したが、体調不良が続きシーズン中も体重が3㎏も減ったり、肝心な試合で勝負ができない状態だった。2025年は全部の試合で“1着を取れる”という自信を持った状態でスタートラインに立てるように、昨シーズンの反省も生かしながら体作りをしています。今シーズンは出る試合すべてで勝ちたい」
◆世界陸上へ 充実の冬季トレーニング
その想いは練習内容にも表れている。冬期は本練習の前、約1時間もの間補強トレーニングに汗を流す。軸のぶれない走りに繋がる体幹や短距離選手の“エンジン”とも言える臀部を中心に鍛え上げ、秋頃に出来なかった補強も今では軽々こなすまでになった。 この日のトレーニングは午前に坂ダッシュ、午後はウエイトトレーニング。トレーニングの最中には「うぉー!攣る!」と悲鳴に似た雄叫びも。充実したトレーニングを順調にこなせている証拠だ。 「この冬季は今までやったことのない練習も取り入れ、できなかった事ができるようになったり、今まで強みだった部分もさらに強化したり、工夫してやっています。2025年は100mだけではなくて200mにも出場して、100mで言えば70mの勝負ところで伸びるような走りをしていきたいなと思っています」 東京世界陸上の代表権を勝ち取るためには、ワールドランキングで出場圏内に入るか各種目に設定された参加標準記録を突破しなければならない。その上で7月の日本選手権で上位に食い込む必要がある。 「もう僕は長くキャリアをやっているので、ポイントの高い大会に出てランキングで狙うのではなく、どんな大会でも誰がいようとトップとタイムを狙いたい。1着以外は気持ちよくないですからね。タイムは自己ベスト(9秒98)と日本記録(9秒95)を更新したい。9秒台を出せなかったら世界大会に出る資格はないという覚悟でやっています」 その覚悟は、東京・パリオリンピック™と2大会連続で個人での出場を逃した悔しさの表れだ。自己ベストは2017年以来、8年更新できていない。9秒台と個人での出場は桐生にとって2025年の大きな目標となる。 「東京五輪のときは無観客でお客さんがいなかったので、2025年の東京世界陸上はお客さんがたくさん入ると思いますし、そういう大きな大会が日本であるというのは、子どもたちにとっても陸上を始めるきっかけになり、陸上人気が高まるきっかけにもなると思うので、その中で走りたい想いが強いです。今のままでは世界陸上のファイナル(決勝)にはかすりもしないので、サニブラウン選手のように9秒9台をコンスタントに出して世界と勝負したい」 パリ五輪のリレーでは世界中のスプリンターを押しのけトップでバトンを渡した桐生。その時のラップタイムは、リオ五輪で銀メダルを獲得したときよりも、9秒台をマークした2017年シーズンよりも速い過去最高のタイムだった。2025年、東京世界陸上が待ち受ける特別なシーズンに日本人初の9秒台スプリンターがついに目覚める。