謎多い「マツタケ」……今年は豊作でも長野県が人工栽培の夢
決定打がない人工栽培方法
長野県林務部の「信州の木活用課」によると、その背景として(1)マツタケの生育が気象条件などに微妙に左右されて人工的なコントロールがほとんど利かないこと、(2)マツタケが育つために欠かせないアカマツのマツクイムシ被害が本州西部から広がりつつあるため――などを挙げています。 このうち気象条件について同課は「今年の夏は暑かったが徐々に気温が下がり始め、9月におしめりとして雨があった。これがマツタケの生育条件に合致して豊作になったようです。しかし、このような気象条件は毎年用意されるわけではないので、マツタケの生育が左右されるわけです」と説明します。 同課によると、マツタケはアカマツの根元に菌糸などによる「シロ」といわれる領域(コロニー)ができ、アカマツと栄養分などを交換しながら共生するのが大きな特徴。そして地温の積算温度と雨による湿気などさまざまな条件が整うことによって、マツタケが育ちます。多くの専門家やきのこマニアなどがこの秘密を解いてマツタケの人口栽培をと夢見てきましたが、いまだに決定打はありません。
20年後にはモノにしたい
しかし、マツタケの生育をコントロールする方法はあるはずと、長野県は昨年から粘り強い研究に着手。塩尻市の林業総合センターで研究を続けています。「20年後には何とかモノにしたい」(同課)と遠大な計画のもと、本気の「マツタケを育てる作戦」です。長野県によると、茨城県なども同様の研究を続けています。ほかに東北の自治体や岡山県の自治体でもマツタケの人工栽培などのチャレンジをしているようです。それぞれ手法が異なり、屋内での人工栽培を目標としている研究のほか、長野県の場合は実際のアカマツ林の中で菌糸などをコントロールして「育ち」を促す作戦です。 マグロの完全養殖の実現では日本人のあくなき挑戦が話題になりましたが、食のこだわりの点では、マグロにも太刀打ちできるテーマの「マツタケ栽培」。時にはびっくり高値にもなるマツタケは投機的な対象にもなり、長野県では以前、マツタケ山の権利をときには300万円前後で事前に買う例もあり、不作だと大損、豊作だと大もうけということもあったようです。上田市の地元関係者によると「今はそんな高額の権利の取引はなく、数十万円に落ち着いているのではないか」との見方も。さまざまな思惑の中、高価なマツタケの大衆化が成るか、人工栽培へのチャレンジはお役所をも夢中にさせる大きな夢に育ちつつあるようです。 (高越良一/ライター)