連載20年&400回超え! ホラー?ギャグ? 漫画『彼岸島』が向かう場所を作者・松本光司氏に聞く
もう一つのシンボル(?)「丸太」については、こんないきさつを明かす。 「モデルにするというほどではないのですが、田舎の島がどんな感じかを知るための取材で当時の編集さん二人と新島に行きました。 絵を描くにあたって田舎らしいアイテムが要るなと思って歩いていた時に、良い感じの家があって、そこに丸太があったんです。丸太はあまり都会にはないので、たまたま描いて、話の展開でたまたまそれが武器になっただけなんです」 実は『彼岸島』は、吸血鬼に町が蝕まれていくスティーブン・キングの『呪われた町』がヒントになった部分もあると聞く。でも、なぜ「島」にしたのか。雪深い北国など、閉ざされた空間の設定はいろいろあったのでは。 「島を舞台にしたのは、離れていること・閉ざされていることが一番分かりやすかったから。森の中や山の中など、設定としていろいろあったと思うけど、通行止めがどうとか、橋が落ちてどうとかよりも、船がないと出られない、というほうが分かりやすいという点が大きかったと思います」 さらに、衝撃なのは、作品の命ともいえるタイトルの決め方だ。 「あまり考えていなかったんですよ(笑)。それで、編集さんとそれぞれいっぱい吸血鬼っぽいタイトル案を出して並べて『これ良くない?』と選んだのが『彼岸島』です。 ただ、『彼岸は話に全然関係ないぞ』ということで、島に彼岸花を咲かせておこうと。彼岸花設定はタイトルから無理矢理決まったんです(笑)」 ことごとく軽いノリで決めたものがうまくハマり、気づけば20年超の連載となるすごさ。 ◆個性強い各キャラクターは……「僕の場合、たぶん描きたい『感情』なんですね」 ところで、主人公の明はどのように作られたのか。 「主人公も他のキャラも、僕の場合はとりあえず出してみてから考えるんです。粘土細工を作るみたいに、『これが足りないな』とか『こっちにしたいな』とか、いじりながら少しずつ固めて作っていく感覚ですね。 出発点は絵でも、設定でもなく、僕の場合、たぶん描きたい『感情』なんですね。 主人公の場合は『兄貴へのコンプレックス』を描きたいというのが最初にあって、それを物語の設定にどうはめていくかを考える。逆に、『大阪城に刺さった通天閣を描きたい』みたいにシーンが頭の中に出てきて、そこから話の流れを考えるパターンもあります」 浮かんだアイディアは「適当にメモる」が、「雑なので時間が経ってから見ると、何のことかさっぱり分かんないことも多いです(笑)」と言う。 そんな感覚で生まれたのが、上品な洋装+時折愛嬌たっぷりの口調で話す最強の吸血鬼「雅(みやび)様」でもあった。 「僕はロックバンドの『クイーン』が大好きで、高校生の頃よく『狂気への序曲』の格好を真似て落書きしていたんです。吸血鬼っぽいなと思って。それを思い出して1話目で、より凶暴な感じにアレンジして登場させてみた感じですね。それがなんだかんだ印象づいたから、『じゃあ、ボスにしていこうか』みたいな」 雅様は、敵のボスながら、明について「あの頃のまま孤立してしまった もう一人の自分に見える時がある」と自分の若い頃と重ね合わせ、愛着を見せるような面もある。しかし、そのキャラクター性については「あまり何も考えていない」と即答。 「ただ、雅さんの出発点は『人間が嫌い』という感情ですね。人が嫌いになるのは、たぶん踏み込んだら人が好きだからということだと思うんですが……。 最初は本当に何も考えていなくて、編集さんとの打ち合わせの中で、雅さんはどういうやつなんだとか、何がやりたいのかとか聞かれた時に一生懸命考えて、少しずつ固まっていったんだと思います」 最初から練られて作り込まれていないからこそ、視聴者を翻弄する謎めいた存在になったのかもしれない。