佐藤健の超絶アクションだけじゃない! 実写版「はたらく細胞」が成功した理由と、意外にダークな注意点
3:映画オリジナルの「タメになる」要素の拡張も
さらには、映画では「はたらく細胞」シリーズ初の「人間の世界」も描いており、「人間の行いが体内ではこうした変化として表れる」という「連動」があるため、原作で支持された「タメになる」要素が拡張されているのだ。 映画オリジナルとなる、芦田愛菜の「しっかり者の女子高生」と、阿部サダヲの「ちょっとダメな父親」が織りなすドラマは感情移入しやすく、加藤清史郎演じる「憧れの先輩」との関係にもニヤニヤしてしまう。ここは同じく武内英樹監督×徳永友一脚本の「翔んで埼玉」にもあった、とっぴなビジュアルおよび設定の世界との対比となる「現実的な視点」として、映画により入り込みやすくなる効果も生んでいる。 原作を1本の映画にまとめるための取捨選択と再構成も的確であり、さらにスピンオフ作品 『はたらく細胞BLACK』も原作としている点も重要だ。タバコと酒とジャンクフードが大好きで不摂生になっている父親の体内が「ブラック化」して、細胞たちが理不尽な労働をさせられている様から、大人こそが「自分も気をつけよう」と反面教師的な学びを得やすくなっている。 さらに、終盤には伏線もしっかり生かしたドラマチックな展開が用意されている。ホームドラマとしてはベタとも言ってしまえるものだが、やはり「体内との連動」があってこそのタメになる面白さがあるし、そこにはどれほど絶望しても諦めない人間の気高さと、人体のたくましさを再確認できる構造もあるのだ。
「意外にダークでシリアス」な終盤には注意が必要?
注意点をあげるとすれば、G(全年齢)指定で収まる範囲とはいえ、終盤のダークな展開に実写ならではの生々しさがあることと、やや間接的な表現を守りつつもナイフでの殺傷シーンがいくつかあることだろうか。怖さや残酷さは原作にもあった要素であるし、コミカルとシリアスのギャップの大きさも本作の見どころなのだが、楽しく笑える場面のみを期待していた人にとっては、そうした印象に面食らってしまうかもしれない。 最強の敵であるFukaseのサイコパスみのある演技も相まって、未就学児のお子さんには刺激が強すぎないかとも心配してしまうのだが、最近はアニメ「鬼滅の刃」などで残酷描写に対する“免疫”はあるだろうし、しっかり親御さんがそばにいてくれるのなら、それほど身構えなくてもよいのかもしれない。また、漢字混じりの文章がセリフなしで示される場面もあったので、親御さんがその内容を覚えておき、鑑賞後に教えてあげるのもいいだろう。 もちろん、終盤の展開はいたずらに怖いだけでなく、しっかり意図が込められている。田口生己プロデューサーは本作に込めた思いについて「誰もが日々を生きていく中で、辛いことや大変なこともあるはず。世界を見渡せば、戦争が起きていたり、心が痛むような出来事もあります。そういった時にも解決の糸口になるのは、自分は決して一人ではないんだということ。みんなで協力し合っていくことが、平和への道筋になるはず」とも語っており、確かにその通りの志の高さが出来上がった映画、特に終盤の恐怖や絶望の感情をも引き出す描写から感じられたのだ。 つまりは終盤の印象は注意点であると同時に、作り手が現実の世界の残酷さを見据えて作品に昇華させた、美点でもあるのだ。楽しいコメディーパートはもちろん、「意外にダークでシリアス」な終盤、さらには「戦争映画のような重み」を経てこそのラストシーンまで、めいっぱい楽しんでほしい。 (ヒナタカ)
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