ジンジャー・ルートの人生秘話 日本のカルチャーに救われ、「偽物」ではない自分の音楽を手にするまで
中華系アメリカ人としてのルーツにどう向き合うか
―MVについても伺いたいのですが。『Nisemono』や『City Slicker』の時は、日本の80年代のドラマやコマーシャルのパロディのような内容だったと思うのですが、今回は日本的な要素もありますけれど、レトロなアメリカのシチュエーション・コメディを彷彿とさせるようなビジュアルになっています。この点も、先ほどおっしゃっていた「自分自身を表したものである」というアルバムのテーマを表現したものになっていると思ったんですが。 GR:ああ、そうですね。そのバランスはかなり意識しました。「No Problems」はハーフ・アンド・ハーフで「Better Than Monday」はとてもアメリカ的。逆に「There Was A Time」は、日本的なイメージのMVになってます。「Better Than Monday」で僕は自分のTV局を設立するじゃないですか? そのTV局で放送されるテレビ番組が「There Was A Time」って感じです。自分なりの『スケバン刑事』をやってみました(笑)。それぞれのMVはドラマ・シリーズのエピソードのようなもので。続けて観れば、ストーリーがつながるというような構成でつくっています。 ―「No Problems」のMVでは、編集も音楽制作もすべて自分でこなそうとしている、ワンオペ業務に挑戦するジンジャーさんの姿が描かれていますが、これはジンジャーさんの現実世界でのインディペンデントなアティチュードを表しているようでもありますね。 GR:でもMVを観て貰えばわかるけれど、僕は全部を自分でやろうとして、すべて破綻しちゃってるんですよね(笑)。だから「Better Than Monday」ではチームを雇っていて。現実世界でも似たようなものですね。クリエイティブな面は基本的に自分一人でやるけれど、ラジオ局の人に曲を売り込んだり、ツアーをブッキングしたり、音楽活動に伴うすべてを一人でやることはできない。チームが必要なんですよ。僕とヴィジョンを共有してくれて、何かがうまくいかなくても助けてくれる、チームへの感謝の気持ちは常にあります。 ―今作で「新しい自分」を宣言したジンジャー・ルートは、次はどこに向かうのでしょうか? GR:そうですね。次のレコードは自分のルーツに立ち返りながら、日本的な要素も取り入れた作品になりそうです。これまでなかなかそこに向き合ってこなかったのって、子どもの頃のトラウマみたいな経験が影響していて。自分の直接的なルーツだから余計にそう思うのかもしれないけれど中国の文化圏って、少しだけ冷たい気が僕はしていたんですよ。子どもの頃はアメリカ育ちだから、中国に行った時に中国語が喋れないことで、「中国人なのに、自分のルーツの言葉も喋れないの?」って言われたりすることもあって……中国語を学ぼうという気にはなかなかなれなかったんです。対して、日本では外国人ということもあって、ちょっとでも日本語で何かを喋るとみんなが喜んでくれたり、温かく接してくれたりするので……より親近感が沸いたんですよね。 でも、日本と中国の文化は深く繋がっているじゃないですか。交わるポイントが何か見つけられそうな気がしているんです。そこを深く掘っていきたいと思いますね。子どもの頃から中国の映画もたくさん観ていたし、武術も習っていたから……それもヒントになりそうな気がしています。 ―来年1月には福岡・広島・大阪・名古屋・東京を廻るジャパン・ツアーが行われる予定ですが、このアルバムをライブで再現するとなるとなかなかサウンド的にも演出的にも濃厚なものになりそうですよね。 GR:いや、まさに。お金とか技術とか規模的な事情で今までできなかったことに挑戦したいなって思っています。大きなステージだからこそできるような没入感のある演出をやってみたいんです。ジンジャー・ルートのMVの世界に入り込んだような……「十番テレビ」のスタジオに来たような気分になれるようなものをやってみたいな、と。映像やセットやパフォーマンス、すべてが有機的に絡み合って『SHINBANGUMI』の世界観を表すようなものにしたいです。 ―今からどうなるのかめちゃくちゃ楽しみです。本当に今日はありがとうございました。 GR:(日本語で)ありがとうございました! --- ジンジャー・ルート 『SHINBANGUMI』 発売中 日本盤CDボーナストラック収録 『SHINBANGUMI JAPAN TOUR 2025』 2025年1月10日(金) 福岡 Zepp Fukuoka 2025年1月12日(日) 広島 BLUELIVE HIROSHIMA 2025年1月14日(火) 大阪 Zepp Osaka Bayside 2025年1月15日(水) 愛知・名古屋 Zepp Nagoya 2025年1月16日(木) 東京 Zepp DiverCity ※SOLDOUT 2025年1月17日(金) 東京 Zepp DiverCity ※追加公演 ※全公演オープニングアクトあり(後日発表)
Jin Otabe