ごった返す空港。インバウンドも為替次第＝東京・羽田空港

【列島エイリアンズ】 訪日外国人にとっては、まさに円安という名のバーゲンセールが行われている状態の日本だが、彼らの財布のひもが思いのほか固いことについて、これまでお伝えしてきた（1日、8日発行）。 【比較してみる】日本人と外国人の旅行消費額の推移 そうしたなか、事業者の間では訪日ビジネスを敬遠するような動きも広がってきている。 JATA（日本旅行業協会）が旅行会社・宿泊事業者・輸送事業者などを対象に7月に実施した「訪日観光客の受け入れ拡大に向けた意識調査」では、訪日観光客を受け入れていない事業者の39％が「今後も受け入れの予定はない」と回答。1月に行われた前回調査よりも、訪日ビジネスに後ろ向きな事業者が4％増える結果となっている。 そのうちの61％が理由として挙げたのが「人手不足や人材不足」だ。しかし、言い換えれば、それらの課題を乗り越えてまで新規参入するほど、訪日ビジネスに魅力を感じていないということだろう。 さらに、これまで訪日外国人客をターゲットに順調に収益を上げてきた事業者からも不安の声が出てきている。 「必ずマイナスになる」 星野リゾート代表の星野佳路氏も、先月末に行われた記者会見の壇上で、そう危惧を表明した。星野氏はインバウンド業界のキーパーソンともいえる人物だが、円安によって「『安いからいま日本へ行こう』という訪日外国人が増えている」とした上で、為替に左右されない訪日観光のあり方を考えるべきだと指摘している。 政府やインバウンド関連業界はこの危機感を共有し、円安の恩恵による訪日ブームに浮かれるのではなく、安さだけではない日本が持つ真の魅力で外国人観光客に訴求することを考えるべきではないだろうか。 ＝この項おわり 外国人材の受け入れ拡大や訪日旅行ブームにより、急速に多国籍化が進むニッポン。外国人犯罪が増加する一方で、排外的な言説の横行など種々の摩擦も起きている。「多文化共生」は聞くも白々しく、欧米の移民国家のように「人種のるつぼ」の形成に向かう様子もない。むしろ日本の中に出自ごとの「異邦」が無数に形成され、それぞれがその境界の中で生きているイメージだ。しかしそれは日本人も同じこと。境界の向こうでは、われわれもまた異邦人（エイリアンズ）なのだ。 ■奥窪優木（おくくぼ・ゆうき）　1980年、愛媛県出身。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国で現地取材。2008年に帰国後、「国家の政策や国際的事象が、末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに取材活動。16年「週刊SPA！」で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論され、健康保険法等の改正につながった。著書に「ルポ　新型コロナ詐欺」（扶桑社）など。