田中角栄は、世界の権力者たちとくらべて「悪い政治家」だったのか…? 比較して見えてくること
原爆の父と呼ばれた科学者、ロバート・オッペンハイマーは「私は自分の手が血塗られているように感じる」と訴えたが、トールマンは「泣き言を言うなんてけしからん」と吐き捨てたという。 【画像】石破自民の惨敗を予言していた「写真」を見る 「力」こそすべての政治世界の中で、史上最悪の「力の行使」はトルーマンの原爆投下命令だが、「力」の信奉者は現在でも数多くいる。 近くの国だけでも、核兵器開発とミサイル開発に国富のほとんどをつぎ込んでいる北朝鮮の金正恩、軍事力と経済力をパワーアップして、中国を「世界一の強国」にしようと邁進している習近平などなど枚挙に暇がない。 その意味で、じつは日本には本当の「悪党政治家」はいないのかもしれない。 永田町取材歴35年、多くの首相の番記者も務めた産経新聞上席論説委員・乾正人は、いまこそ「悪党政治家」が重要だと語る。「悪人」をキーワードに政治を語る『政治家は悪党くらいでちょうどいい!』(ワニブックス刊)より一部を抜粋編集してお送りします。
原爆投下をまったく悔いていない
日本史を紐解くと、極端に倫理・道徳観が欠如したリーダーはほとんどいない。 東京裁判で「人道に対する罪」などに問われ、絞首刑に処せられた元首相、東條英機でさえ、戦争中に戦地や占領地で起こった「非人道的行為」を直接指示したケースはまったくなく、自らがつくった「戦陣訓」では皇軍兵士に綱紀粛正を説いているほどだ。 日本史のなかで「悪い奴ら」といえば、織田信長の右に出るものはいまい。 何しろ比叡山延暦寺では無抵抗の女子供まで切り捨てたほか、伊勢長島の一揆では一向宗門徒を何万人も皆殺しにしている。 それでもNHK大河ドラマが、織田信長を何作にもわたって「進取の気性に富んだ英雄」として描いたため、彼の残忍性は閑却されてしまった。 対日戦終戦時の米大統領で、広島・長崎への原爆投下にゴーサインを出したハリー・S・トルーマンも立派な「悪い奴ら」である。 原爆開発計画を推進した大統領、フランクリン・ルーズベルトは既にこの世になく、あとを引き継いだだけ、と弁護する向きもあるが、原爆投下の決断をあとになって悔いたわけでもない。 原爆の父と呼ばれた科学者、ロバート・オッペンハイマーは1945年10月、ホワイトハウスでトルーマンと面会し、「大統領、私は自分の手が血塗られているように感じます」と訴えた。これに対しトルーマンは「血塗られているのは私の手なのだから、私に任せるように」と述べたという。 しかし、内心では怒りで腸(はらわた)が煮えくり返るようだったようで、米国務長官のディーン・アチソンに「あいつの手が血塗られているって? 冗談じゃない。あいつには私の手についている血の半分もついていないさ。泣き言を言うなんてけしからん」と吐き捨てたという。