菊地吉正の【ロレックス通信 No.255】|実機を見て久しぶりにグッときた通称サンダーバード。その第3世代は今おいくら?
先日とあるショップで久しぶりに実機を手にしてあらためていいあと感じたデイトジャストの通称サンダーバード、その第3世代に注目してみたいと思う。 【画像】バリエーションを写真でチェック 現在はロレックスのコレクションに存在しないこの回転ベゼル付きデイトジャスト。ご存じのない方のためにこのサンダーバードという愛称をもつモデルがどういうものかについて筆者が刊行したMOOK“ゼロからわかるロレックス・アンティーク編(定価1650円)”から引用してまずは簡単に紹介したい。 「サンダーバードとは一説によると、ロレックスのニューヨーク支店が1955年に現地法人に格上げされたことを機に、同社からの提案でアメリカ市場向けとして56年にリリース(54年説もあり)されたものだと言われる。そのためアメリカ国内でのみ使われていた愛称だ」 ではそもそもサンダーバード名とはどこから来たのかというと「56年、アメリカ空軍のアクロバットチーム“サンダーバーズ”の隊長ドン・フェリス大佐の引退に際して、その記念品として回転ベゼル付きデイトジャストをベースにしたモデルが特別発注された」と書いてある。 つまりロレックスは“サンダーバーズのために開発されたデイトジャスト”として、一般向けにPRを図ったことから、この愛称が付いたというのが通説になっている。 後にヨーロッパや日本でも販売されるようになるが、昔の日本向けカタログにはターノグラフ(ターン・オー・グラフ)と表記(もちろん文字盤上にも記載はない)されており、サンダーバードというのがアメリカだけの名称だったことがわかる。
サンダーバードを象徴するベゼルのエンジンターンドモチーフとは
さて、このサンダーバードの愛称が付いたデイトジャストは1956年頃から2003年まで5世代にわたって製造。今回取り上げたのはそのうちの1959年頃から77年頃まで製造され、ロレックスの自動巻きメーヴメントの傑作と呼ばれる1500系のクロノメーター版であるCal.1565(65年からCal.1575に移行)を搭載する第3世代のRef.1625。約18年間と歴代サンダーバードのなかではロングセラーとなったレファレンスだ。 当初はミラーダイアルにくさび形インデックスやドーフィン針など第2世代のRef.6609のデザインを引き継いだものも見られたが60年代半ばからは写真のようなバーインデックスにバトン針というデザインに統一されている。 このサンダーバードの魅力は大きく二つあると思う。ひとつはデイトジャストと同じケースサイズが36mm径で着けやすい点。もうひとつは、古典的なエンジンターンドモチーフの装飾が施された双方向回転ベゼルが、適度に個性的でスポーティさも感じさせるなど飽きのこないデザインという点だ。 このエンジンターンとは、機械による装飾などの表面加工のひとつ。旋盤を使って金属の表面に細かい幾何学的な装飾を刻み込む加工のことをこう呼ぶそうで、球面でも付けられるため万年筆やライターなどにも良く使われる装飾とのこと。ただ、ロレックスの場合は都市伝説かもしれないが、航空機のエンジンに似ていることからこう呼ばれるようになったという説もある。いずれにせよサンダーバードの魅力はこの装飾によるところが大きい。 ラインナップは素材がステンレスに加えて回転ベゼルだけが18金ホワイトゴールド仕様のRef.1625/4、ベゼルとブレスレット中央のコマが18金イエローゴールド仕様のRef.1625/3(トップの写真)、そしてケースからブレスレットまですべて18金イエローゴールドのRef.1625/8の素材違いで3種類ある。 Ref.1625であっても1950年代に生産初期の個体やフルゴールドモデルは高額になるが、それ以外のコンビモデル系であれば70~100万円で流通している。ここ数年でさらに高騰したアンティークのスポーツモデルに比べれば、値上がり幅はかなり少ないため狙い目なのではないか。 また、搭載する1500系の自動巻きムーヴメントも、基本性能が優秀なためいまなお実用できるうえにメンテナンスなどのランニングコストも高くない。その意味でも初めてのアンティークロレックスにオススメできるモデルと言えるだろう。 文◎菊地吉正(編集部)
菊地 吉正|パワーウオッチ、ロービートなど時計専門誌の発行人兼総編集長。時計ブランド「アウトライン」も展開。ロレックス通信連載