京都の名店「祇園さゝ木」の一番だしの挽き方、教えます。絶対作ってほしい一品はこれ
茶碗蒸しは天才
子どものころ、六歳か七歳でした。親戚の集まりで和食のお膳をごちそうになりました。「この世にこんなおいしいもんがあったんか!」と仰天したのが、茶碗蒸しでした。お匙ですくったら、澄んだだしとふるふるした卵が、口の中でほどける。なんて、おいしいんだろうと、めちゃくちゃ感動しました。 ぼくが子どものころには、電子レンジで温めるだけの茶碗蒸しなんて売っていなかったし、台所しごとをまかされていた祖母は、茶碗蒸しなんかつくったこともなかったのです。そのせいか、茶碗蒸しを初めて食べたときの感動は、大人になっても忘れられないものになりました。 子どものころ、どうにかして自分で茶碗蒸しをつくろうと「実験」しました。うちには蒸し缶がありません。子ども心に鍋に湯を張って、卵液を入れたうつわを並べました。ところが、できあがったものは、「す」が入ってプリンの三倍ぐらいの硬さでした。かちんこちんでとても食べられたもんじゃない。まさか、卵一個に対して何カップもだし汁を合わせても、固まるとは思いませんわな。 茶碗蒸しを最初に考えた人は、天才だと思います。昆布と鰹で挽いた一番だしをベースに、醤油とみりんで味を調えて、割りほぐした卵と合わせる。あとは鶏肉、海老やら、練りもの、椎茸、百合根など、具は旨味成分ばっかりです。 蒸している間に、その旨味成分が卵とだしに溶けだしてくるのですから、いまから思えばそれはうまいに決まっています。茶碗蒸しの凄さに仰天したのは、料理人になってからでした。 ぼくは茶碗蒸しが大好きだから、祇園さゝ木でも、「玉〆め」はよく献立に出しています。玉〆めは、茶碗蒸しほどたくさんの具材は入れませんが、卵の生地を蒸し上げる手法は、同じです。 茶碗蒸しは、冷蔵庫に卵が一個しかないときでも、二、三人分のごちそうがつくれます。一番だしの挽き方を憶えておいたら、あとは冷蔵庫の残り物の煮物やかまぼこ、鶏肉の切れはし、きのこや青菜があったらできます。 蒸しものの湯気は、食べる人を幸せな気持ちにさせます。 いまでも、休みの日にどこかに出かけて、なにを食べるか選ぶときは、茶碗蒸しがついていたら、それを選ぶ。それぐらい大好きです。
佐々木 浩(「祇園 さゝ木」主人)