京都の名店「祇園さゝ木」の一番だしの挽き方、教えます。絶対作ってほしい一品はこれ
だしでイノベーションをおこす
祇園さゝ木の生命線は一番だしです。 それがすべてのベースになるのは、これからもずっと変わりません。 うちの店で、だしにかける原価は、おひとりあたり、六百~七百円です。食材は豪華でも、基本のだしを適当にしていたら、心に響く料理はつくれないし、お客さんを笑顔にはできません。 歴史を遡ると、日本は長いこと鎖国してきたので、油脂がない料理が基本になっています。それでも、昆布と鰹のだしだけでは、モノトーンでしかないのです。いつも同じでは、食べるひとも、飽きてしまうでしょう。 たとえば、中華の清湯(ちんたん)スープをまとわせたら、どうだろうか。フレンチのコンソメ、ブイヨン・ド・レギューム(野菜のだし)などをかけあわせると、さらにうまみと深みの輪郭が濃くなります。ちなみにフレンチの野菜だしは、一番だしを教えた二つ星の若いシェフから直々に教えてもらいました。 いろんな国のスープをかけあわせると、和食のコース料理のだしがたちまちカラフルに、艶やかになります。これは、大げさかもしれませんが、革新であり、イノベーションだと、ぼくは思っています。
だしを挽いてください
だしはフレンチや中華のスープとはちがって、火の傍に付きっきりでいたり、何時間もかかったりしません。夜のうちに昆布を軟水に漬けておいたら、翌朝、ゆっ くり加熱して鰹節を投入して濾しても、時間にしたら二十分もあれば絶品の一番だしが完成します。 フルタイムで働いて、子どもを育てて、料理する時間はない、とお叱りをうけるかもしれません。時短料理が流行り、合わせ調味料と顆粒だしがスタンダードなのかもしれません。それでも、お願いです。 家族の、子どもたちの健康を考えるなら、昆布と鰹節でだしを挽いてみてください。顆粒だしには、天然と謳っていても、添加物が入っています。平日はむずかしくても、週末や、休日には、だしを挽いてほしいな、と思います。 まだ、味蕾が育ちきっていないお子さまにはなおさらです。 鰹と昆布のだし、干し椎茸のだしなど、日本古来のうまみを忘れてほしくないと思います。 ご家庭で上手にだしが挽けたら、ぜひつくってもらいたいのが、親子丼、肉じゃが、切り干し大根、そして茶碗蒸し。顆粒だしでは味わえない、だしの深み、うまみを感じていただけたら、うれしく思います。 かつては、夕飯どきになると、それぞれのお家から、あっちの家からはカレーのにおいがして、こっちの家からは秋刀魚が焼ける煙がたなびいてきて、お向かいからは豚汁のにおいがする。そんな懐かしい情景は、いまはもうありません。 家族の健康のため、子どもや孫へ、さらに次の世代へ。毎日の食事で自然のものを食べたら、血液や血管がきれいになって、きれいな状態でバトンを渡せると思います。 十分だけ、早く起きて、だしを挽いてください。ぼくからのお願いです。