喜寿の大垣日大・阪口慶三監督 孫の三塁手と一緒にセンバツ
さしずめ「祖父孫鷹(だか)」だ。第94回選抜高校野球に出場する大垣日大の高橋慎三塁手(2年)は、チームを率いる阪口慶三監督(77)の孫にあたる。「昭和」「平成」「令和」と、3元号で甲子園出場を果たす名将にとって二重の喜びだ。 きっかけは、まだ高橋が小さかったころの正月。祖父の元を訪れた高橋は、何とはなしにバットを振った。すると、愛知・東邦高でセンバツ制覇も果たし、「鬼の阪口」と呼ばれた名将のアンテナが反応した。「この子は、良いスイングをしているな」 ならば、目指すところは一つしか無い。「大きくなったら、おじいちゃんと一緒に甲子園に行くんだよ」。子供をやる気にさせ、才能を伸ばす手腕はさすが。以来、機会があるたびに、高橋の技術指導を続けた。 中学3年を迎えた時、高橋は親の仕事の都合で愛媛県に住んでいた。愛媛の強豪校に進学する選択肢もあったが、最終的に大垣日大を選んだ。「(祖父が)いるからだけではない。甲子園に一番近い道が大垣日大だと思った」と高橋は言う。 とはいえ、周囲から厳しい目で見られるのは覚悟の上だったのだろう。野球部の活動中は「慎から話しかけてくることはまず無い」と阪口監督。孫は、祖父としっかり一線を引いた上で白球を追い、レギュラー入りを勝ち取った。 一方の阪口監督はというと、少々事情が違う。本人は意識していないようだが、高橋に話しかけたり、アドバイスしたりする頻度は他の選手よりも少しだけ多いそうだ。祖父は、孫への思いが知らず知らずにあふれているのかもしれない。 だが、喜寿を迎えてもなお、つえを片手にグラウンドを歩き回り、精力的に指導する指揮官への選手からの尊敬の念は、その程度で揺らぐことはない。ある選手は「阪口先生の考えていることが、慎への話を通じて、あらためて共有できている。誰も変に思わないし、気にしていませんよ」と説明する。 近年、甲子園で祖父が率いる高校で孫が選手として出場したケースで思い出されるのは、2013年夏、14年春の横浜だ。当時監督だった渡辺元智さん(77)が、現在は楽天でプレーする孫の佳明(25)とともに出場。百戦錬磨で知られる渡辺さんですら「感慨深い時間でした」と振り返るほど特別な大会だった。 大学卒業以来、ほぼ高校野球の監督一筋で過ごしてきた阪口監督にとっても、孫と一緒に戦う甲子園は初めての体験である。「長いことやってきたけれど、本当にこんな時が来るとはね……」。祖父にとっては春夏通算33回目、孫にとっては初めての甲子園。勝敗は時の運だが、それぞれにとって一生忘れられない球春になることだけは間違いない。【岸本悠】 ◇全31試合をライブ中継 公式サイト「センバツLIVE!」(https://mainichi.jp/koshien/senbatsu/2022)では大会期間中、全31試合を動画中継します。また、「スポーツナビ」(https://baseball.yahoo.co.jp/hsb_spring/)でも展開します。