犬スポット訪問記(3)「群馬県・犬塚峠」“イヌゾー”と日本酒と
もちろん、お酒自体が本当に美味しかったのだと思う。それに加えて、禁煙による刺激不足をアルコールが大いに補ったのだろう。また、禁煙効果で体全体の血流が良くなるなど、体質が変わった事も実感としてある。そのためか、頭痛も発生しない。それら諸々で「あっ、俺酒飲める」と確信したのがこの時であった。この後しばらくは、下戸から一転して日本酒が欠かせない生活が続いたほどである。 そして、2本とも飲み干してしまった後、是非また飲みたいと今年の春先に「犬塚峠」を再訪したのだが、件の酒屋さんは残念ながら廃業していた。製造元の永井酒造(群馬県川場村)さんに聞いてみると、『犬の恩返し~犬塚峠』はこの酒屋さんだけのPB(プライベート・ブランド)で、もう製造はしていないとのこと。2001~2012年ごろに現地でしか手に入らなかった幻の酒だったのだ……。瓶を捨ててしまったのが惜しい!
村人が可愛がった犬を葬った「犬塚」
さて、お酒のモチーフになっている「犬の恩返し」と「犬塚峠」の謂れであるが、それはラベルにしっかりと書いてあった。幸い、ラベルの写真は撮っていたので、少し文章を整理して抜粋する。 「300年あまり前、この村に一匹の迷い犬が来た。村人が哀れに思い食べ物を与えると、その犬は村に居つき、村人皆の犬となった。ところがある日、突然姿を消してしまった。それから約2ヶ月後の早朝、犬は天照皇大神の大麻札を背負って帰ってきた。村人たちは、犬が代わりにお伊勢参りをしてくれたと信じ、大麻札は村の丘の上に祀られた」 その後、犬は村人たちにますます愛され、何年か後に死んだという。その亡骸を丁重に葬ったお墓が「犬塚」で、その後、このあたりの小字名が「犬塚」になったという。そして、この伝説を後世に伝えるため、地元の老人会の皆さんが1993年に「犬塚」があったとされる場所にイヌゾーを建てた。と、ここまでが公式の由来だ。
そして、この一帯はかつては険しい峠道で、「犬塚峠」と俗に呼ばれていた。街道筋の中でも冬の難所だったようだが、現在は峠道の面影はほとんどない。その代わりに軽井沢方面・草津方面・日光方面に分かれる国道(日本ロマンチック街道)の四叉路になっており、交通の要衝なのは今も変わらない。 「犬塚」「犬塚峠」は今は正式な地名ではない。「大津」と言った方が通りが良いようだ。近くに「群馬大津」というJR吾妻線の駅があり、犬塚=イヌゾーがある交差点名も「大津」だ。四叉路の一つが草津温泉に至ることから、滋賀県の「大津」・「草津」と間違えて車で来る人もいるという。なんだか1992年のフランス・アルベールビル冬季オリンピックで、間違えて同じ綴りのアメリカ・アラバマ州のアルバートビル(Albertville)に観戦に行った人が大勢いたという、古い都市伝説を思い出してしまった。