歌舞伎役者最高齢・94歳の市川寿猿「スーパー歌舞伎で宙乗りに92歳で初挑戦。スマホでSNS投稿も。星になるまでずっと役者を続けたい」
3歳から女歌舞伎の子役として舞台に立ち、今年で芸歴91年となる市川寿猿さん。「奥方」と呼ぶ、2年前に亡くなった妻との思い出から、今後挑戦してみたい役まで、衰えない役者魂とその源泉を語る(構成=山田真理 撮影=岡本隆史) 【写真】若い頃のキリリとした寿猿さん * * * * * * * ◆高齢者住宅から駅まで毎日15分歩く 今年も暑い夏でしたけれど、7月、8月と歌舞伎座の舞台を無事に終えることができました。 7月の『裏表太閤記』では、耳の遠い老武士の役。実際、僕も耳が悪いのでぴったりです。敵の人数を聞かれたのに、「え? ああ、今年で94歳!」と答えると、お客さんが大きな拍手で喜んでくださって。すっかり年齢がバレているんですねえ。(笑) 昔は「役者に年はない」ということで、年齢を明かしてはダメと言われたものです。僕自身、感覚は40代のつもりでしたが、最近になって、「現役歌舞伎俳優では最高齢ですよ」と聞かされ、へーそう、僕もうそんなおじいさんなの? と。たまに体がえらいのはそのせいかなあって。 注目していただけるのはありがたいことです。先日は終演後に、「寿猿さんの舞台を観ると元気が出ます、見習いたいです」と声をかけられて。でもね、その時は幽霊役だったの。見習っていいのかなあ。(笑)
健康の秘訣を聞かれると、以前は「自宅のある団地の5階までの昇り降り」と答えていました。でも3年前のコロナ感染や、一人暮らしになったことで周囲が心配して。今年、高齢者用賃貸マンションへ越したんです。 コロナに罹った時はちょうどお休みの時期で、舞台に穴を開けずに済みました。幸い症状も軽度。「10日間は外出しないでください」というお達しを守って家にいました。団地の階段にすら出られなかったから、室内用のマシンで足腰だけは鍛えるようにしていましたね。 現在のマンションはエレベーター付きですが、代わりに駅まで15分もかかるんです。そんな遠いのは嫌だと思ったこともあったけれど、健康のためと思って毎日一生懸命歩いております。 マンションの受付には人がいて、帰宅が遅いと声をかけてくれる。昼夜の食事も、頼めば用意してもらえます。 だけど上げ膳据え膳じゃ、頭も体もなまっちゃうでしょう。部屋にある電気のコンロで、調理もします。一人暮らしになったことを聞いた知り合いがインスタントや冷凍食品を差し入れてくれたり、自分でお惣菜を買ってあたためたり。役者は体が資本ですから、毎日しっかり食べるようにしています。
【関連記事】
- 大村崑、92歳の喜劇役者「最期のお迎えは<赤い霊柩車>で。9歳で父が他界。19歳で片肺を切除、寿命は40歳と宣告され。『やりたいことをやってやろう』と逆境が闘志に」
- 日本最高齢88歳のジャズ・シンガー齋藤悌子「夫を亡くし、音楽から離れて15年。喫茶店でジャスを聞いて自然に体が動き『あぁ。また歌わなきゃ』と」
- 尾上松也さんが『徹子の部屋』に出演。両親への思いを語る「20歳の時に急逝した父、女優を辞めた母。志半ばで僕にバトンを渡してくれた、2人の思いを無にすることはできない」
- 片岡千之助インタビュー『光る君へ』12歳から21歳までの敦康親王を演じて。周りから期待される後継者の立場に思う事
- 市川中車さんの再婚に想うこと。市川猿之助被告に代わって「澤瀉屋」を牽引する中車さんを支えてほしい【2023編集部セレクション】