素顔の元寺尾と鶴竜独立が表すもの~見どころ満載の大相撲初場所
師匠定年と霧島の恩返し
初場所の一番の見どころは大関霧島の綱とり。陸奥部屋では、音羽山親方から体のつくり方を含めて強くしてもらった縁がある。昨年11月場所の九州場所では13勝2敗で2度目の優勝。その後も鍛錬を怠らず、初日に備えている。部屋付きで、成長ぶりを見てきた立田山親方(元幕内薩洲洋)は証言する。「昔から、こちらが言わなくても自分から稽古をしていた。部屋で一番強いやつが一番稽古をしているという感じ」と認める。師匠の陸奥親方は春場所後に定年を迎えるため、部屋を持てなくなる。「陸奥部屋」の名称がなくなり、力士たちは移籍する可能性もある。師匠からしこ名を譲り受けた霧島。現在の部屋に在籍中に大願を成就させれば、これ以上ない恩返しとなる。 番付掲載の力士数が600人を切ったことは、昨年12月25日の初場所番付発表時に公になった。初場所は599人で、1979年春場所以来45年ぶりの500人台となった。少子化に加え、2020年以降の新型コロナウイルス禍に伴う行動制限により、スカウト活動に支障が出ていたと漏らす親方衆は少なくない。相撲協会は新弟子検査の体格基準を事実上撤廃して門戸を広げるなど策を講じている。 体の小さな新弟子が増える可能性もあるが、音羽山親方の存在は一つの見本になりそうだ。力士を志してモンゴルから来日したが細身。師匠だった元井筒親方は床山志望と間違えたほどだ。しかし、継続的に鍛えて最高位に君臨。音羽山親方はこう表現していた。「自分の体が全てを表している」。努力次第で出世できることを、体つきが何よりも証明している。 初場所では他にも関脇琴ノ若の大関昇進挑戦や、自己最高位の西前頭筆頭に上がった21歳の熱海富士、23歳で新入幕の大の里ら若手の奮闘も楽しみ。錣山親方に育てられた西前頭2枚目の阿炎も熱い視線を浴び、能登半島地震の被災地出身力士たちは、いつも以上に故郷を背負っての土俵になるだろう。前売りチケットは早くも完売。見どころ満載の土俵を前に、場所開催を知らせる触れ太鼓があと少しで鳴り響く。
高村収