【私の憧れの人】ブロガー・紫苑さん 作家の幸田文さんに学んだ「身の丈に合った暮らし」の尊さ、珠玉の言葉は“福分“と“持ったが病”
さまざまな分野の最前線で活躍し人々の憧れのまとである人にも、目標にし、励まされ、時には手を取り合った「憧れの人」がいる。人生を輝かせた「あの人への思い」をインタビューした。コロナ禍を経て貯蓄と仕事を失い、意を決して「月5万円」の年金だけで暮らす日々を綴ったブログがたちまち注目を集め、著書『71歳、年金月5万円、あるもので工夫する楽しい節約生活』が大人気になった紫苑さん(73才)。 【写真】シニアブロガーの紫苑さんが影響を受けた作家の幸田文さんとは?
“誰からも愛されていない”といじけた感じが自分に似ている
多くの人を惹きつける文章や、節約しながらもおしゃれを楽しむ自由で軽やかなライフスタイルには、実は「お手本」がいる。作家の幸田文さん(享年86)だ。 「もう40年も前になりますが、最初に読んだのは小学校卒業までの思い出を書いた随筆『みそっかす』でした。父の幸田露伴さんのことばかり書いて“ファザコン”と言われていた文さんに、親近感を覚えていました。私も自分の父を尊敬していましたし、“自分は誰からも愛されていない”といじけた感じが、なんとなく自分に似ていると感じたのが、憧れの始まりです」(紫苑さん・以下同) いまでこそ、節約しながら丁寧で豊かな暮らしを発信している紫苑さんだが、「70代で節約生活を始めるまで、家事が嫌いで、興味もなかった」という。それが、文さんが父・露伴さんから家事を徹底指南される『あとみよそわか』を読んだことで、目からうろこが落ちた。 「家事には男も女もなく、誰もが一生やるものだと考える露伴さんは娘を家事のプロフェッショナルに育てるつもりかというほど、厳しく教え込むのです。そのおかげで一時断筆していたときに芸者屋で女中として働き始めると“家事の達人”としてうわさになり、婦人誌で取り上げられるほどだったという文さんのエッセイを読み、家事の大切さに気づかされました。 文さんに触発されていざ本気で家事に向き合うと、まるで瞑想しているかのような気持ちで集中できて、終わると心もスッキリする。露伴さんの躾(しつけ)はとても厳しいですが“身を美しく”と書くように、躾は自分自身を美しくするんだと実感しました」 文章の端々ににじむ文さんの芯の強さや人を見る目の確かさ、感性に強く惹かれて、ほぼすべての著作を読破した紫苑さんは、文体や暮らしぶりにも影響を受けるようになる。 「読んでいると、オノマトペを多用する独特の文章のリズム感がとても心地いい。 そんな珠玉の言葉の中でも、お気に入りは2つ。1つは沢村貞子さんとの対談に出てくる『福分』で、値段や種類などに関係なく、自分に合った衣服を身につけること。それがその人をいちばん幸せにする、というのが文さんの考えです。 もう1つは『持ったが病』。自分の持ち物を見せつけて自慢したがるくせのことで、“もったいないから”“高かったから”と着られない服やいらないものを捨てられないのは“病”なのだと教えられ、高かった着物をずっと捨てられずにいた当時の私の胸にグサッと響きました」