大谷翔平のバッティングに大きな”異変”が!? 8月はアーチ量産も打率急降下、その原因と現在の状態は…?【コラム】
本塁打のペースは上がったが…
AB/HR(1ホームランあたりの打数)、K%(打席に対する三振数)の月別推移は以下のようになる。 3~4月はK%が20%を切る一方でAB/HRの数字が18を超え、ロサンゼルス・エンゼルス在籍時の成績とは異なる傾向を示した。5~6月は三振の増加を抑えながら本塁打の割合を高めていった。 この傾向が変わったのが7月である。7月のK%は30%を超え、過去3年の本人の過去の実績値と比べても高位になった。 つまり7月はこれまでに比べて三振しやすくなったのだ。7月はAB/HRも上昇し本塁打のペースも低下した。これらの数字は、8月に入ると5月を上回る水準にまで回復した。 8月は、7月に比べ本塁打は多く三振をしにくくなったが、打率の推移に反映されていない。
スイング指標で見る打撃状態
大谷選手の打撃内容の変化を裏付けるデータが1つある。それは、今季から導入されたスイング指標だ。米分析サイト『Baseball Savant』によれば、大谷選手の主なスイング指標は、月別に図のように変化している。 6月までと比較して、三振が急増した7月、打率が低下した8月の方が平均バットスピードは速くなっている。 しかし、スクエア・アップ率(バットスピードと球速からの理論上の最大打球速度の80%超の打球(スクエア・アップ・スイング)を打てた割合)、ブラスト・スイング率(速いバットスピードでスクエア・アップ・スイングの打球を打てた割合)は、6~7月に大幅な低下をみせた。ただし後者は8月に若干回復した。
8月は「巧打者型」から「一発長打型」に?
平均バットスピードとスクエア・アップ率の相関の月別の変化を示すと、図のようになる。6月までと7月以降が別次元にあるように見える。 2つの指標は両立が難しく、平均バットスピードが上がればスクエア・アップ率は低下する傾向にある。大谷選手の場合、6月まではスクエア・アップ率の高い巧打者タイプの特性もあったが、7月以降はバットスピードの増加と引き換えにこの率が低下し、確実性が低いパワーヒッターの傾向に向かった。 もう1つのスイングに関する指標として、スイング軌道距離(スイングの大きさ)が挙げられる。月を追うごとに数値が上昇していた。 4月:7.5ft(約2.3m) 5月:7.6ft(約2.3m) 6~8月:各7.8ft(約2.4m) 以上から、8月の大谷選手の打撃の変化の要因として、以下の点が考えられる。8月に突然起こったものではなく、これまでの打撃の変化に伏線があったはずだ。 ・シーズンの経過とともにスイングが大きくなり平均バットスピードが上昇した結果、スクエア・アップ率が低下し、7月の三振の増加につながった。 ・7月は四球が多かったために大幅な打率の低下が防げたが、四球が減少した8月に打率の低下が目立つようになった。 ・スイング軌道距離や平均バットスピードの増加が、8月の本塁打の割合の増加につながっている。 こうした打撃の変化は、実はムーキー・ベッツ選手が6月中旬から2か月近く故障離脱していた時期とも符合する。自分で決めに行く打撃内容が増えたことが影響しているのか。 現在はそのベッツ選手も復帰し、大谷選手はベッツ選手につなげばいい立場になった。ファンはどうしても三冠王を期待するが、大谷選手にとって今季それ以上に欲しいものはワールドチャンピオンだろう。 この目標に向けチームの勝利に直結する打撃をすることが、打率を再び向上させる近道のように思える。
ベースボールチャンネル編集部