AI事業者ガイドラインとは何か? 経産省と総務省謹製「日の丸AI」基準の書
国が示す、AI「開発者」「提供者」「利用者」のあるべき姿
AI開発者は、AIモデルを直接的に設計・変更ができるため、AIが提供や利用された際にどのような影響を与えるか、事前に可能な限り検討し、対応策を講じておくことが重要となる。 AI提供者は、AIの稼働と適正な利用を前提としたAIシステム・サービスの提供を実現することが求められる。 AI利用者は、AI提供者が意図した範囲内で継続的に適正利用、必要に応じたAIシステムの運用を行うことに加え、より効果的なAI利用のために必要な知見を習得することが重要となる。 3つの主体の主体者にそれぞれ指針が示されているのだ。例として、AI利用者がAIシステムサービス利用時における指針となる以下の図を紹介する。
AI事業者ガイドラインの展望
AIの進展は、AIの社会実装が進む中で、社会課題の解決や、イノベーションの創出など、さまざまな可能性をもたらす可能性がある。その一方、これまでとりあげてきたように、さまざまなリスクが顕在化する可能性もある。 企業や社会はリスクと便益をどのようにバランスを取っていくのか。本ガイドラインを参照しつつ、AI開発者やAI提供者、AI利用者が、三位一体となって、社会実装に向けて適正かつ安全安心に、取り組んでいくことが求められていくだろう。 AI事業者ガイドライン第1.0版は政府がAI事業者ガイドライン検討会、AIネットワーク社会推進会議、AIガバナンス検討会 合同会議の結果を踏まえ、AI戦略会議に報告後に公表された。慎重を期して発表されたガイドラインだが、今後のAIを取り巻く環境の変化を踏まえ随時更新を行う予定だ。 本ガイドラインは、AI開発者、AI提供者、AI利用者などを対象として、すべての業界や産業に対応できるよう広範囲にカバーした網羅的な内容となっている。その一方で、個々の業界の特性があまり考慮されておらず、やや抽象的な内容にとどまっている部分も見受けられる。 本ガイドラインをベースとして、幅広い業界に活用されていくためには、たとえば「金融分野 AI事業者ガイドライン」「教育分野 AI事業者ガイドライン」といったように、各業界が主体的に業界の特性を考慮した内容も盛り込んだガイドラインの策定をしていくことも必要となるだろう。 今後、各業界でAI事業者ガイドラインの策定とガイドラインを参照した実装が進み、AI活用によるリスクの適切な管理や、AIが産業や人間社会の発展に大きく寄与する流れが加速していくことが期待される。
執筆:国際大学GLOCOM 客員研究員 林 雅之