夏の甲子園は守って勝つ!“飛ばないバット”の導入で「新たな守備戦術」が見えた…「打率最下位」のチームが打って出た“割り切った作戦”
「あともう一歩、前でした」
勝ち越した直後ゆえに、その勢いをそぎたくなかった。しかし、その“嫌な予感”が当たってしまうのも、野球の不思議さだ。そこから2死一、三塁とされると、4番・杉浦の打球が三遊間へ。中村が、打球に飛び込もうとしたのだが「足がついてこなくて、ちょっともつれてしまった」。 つった左足の影響だった。無情にもレフト前に転がり、これで再び同点とされると、続く2死一二塁から、5番・仲健太郎にも左前へ勝ち越しタイムリーを運ばれ、これが決勝点。左足がつったことで、リリーフの準備をしていた中村の登板も回避せざるを得なくなった。 善戦した宮崎商だったが、3-4の惜敗で初戦突破はならなかった。試合後、橋口監督がひたすら悔やんだのは、仲の決勝ヒットだった。 「最後の4点目ですね。あれは(守備位置が)前でした。もう一歩、前でしたね。ホント、私が……。もったいなかったですね」 得点圏に走者がいるときには、逆に思い切って、外野を前に出す。これも、現状の“飛ばないバット”で、失点を防ぐための大事なポジショニングになるのだ。 長打力を持つバッター以外なら、それこそ外野の頭を越されるような当たりも少ない。ならば、得点圏に走者を置いた場面で、長打力に欠ける選手を迎えれば、恐れることなく、外野のポジショニングを前にすればいい。 そうすると、シングルヒットなら、二塁からワンヒットでは突っ込みづらい。その守備体系で、相手走者にプレッシャーをかける。それも“点を防ぐシフト”なのだ。 緻密に、打者ごとに、いや、1球ごとに守備シフトを変えていく。 今や、甲子園に出て来るようなチームの試合映像は、YouTubeなどの動画を探せばそれこそ、簡単に見つけることができる。これと試合データを突き合わせながら、徹底的に対策を練る。そうした「分析眼」も、甲子園の戦いを大きく変えつつある。 飛ばないバットなら、守って勝つ―。それも、新たな甲子園戦法なのだろう。 喜瀬雅則(きせ・まさのり) 1967年、神戸市生まれ。スポーツライター。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当として阪神、近鉄、オリックス、中日、ソフトバンク、アマ野球の各担当を歴任。産経夕刊連載「独立リーグの現状 その明暗を探る」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。産経新聞社退社後の2017年8月からは、業務委託契約を結ぶ西日本新聞社を中心にプロ野球界の取材を続けている。著書に「牛を飼う球団」(小学館)、「不登校からメジャーへ」(光文社新書)、「稼ぐ! プロ野球」(PHPビジネス新書)、「ホークス3軍はなぜ成功したのか」、「オリックスはなぜ優勝できたのか 苦闘と変革の25年」、「阪神タイガースはなんで優勝でけへんのや?」、「中日ドラゴンズが優勝できなくても愛される理由」(以上いずれも光文社新書) デイリー新潮編集部
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