夏の甲子園は守って勝つ!“飛ばないバット”の導入で「新たな守備戦術」が見えた…「打率最下位」のチームが打って出た“割り切った作戦”
大胆な守備陣形
「中京大中京さんの打球は、ちょっと詰まっても、動画を見る限りでは、打球が伸びている傾向があったので、そのことを含めて、監督も外野の守備位置を下げさせましたし、自分からも外野手には指示を出しました」 長打力のあるバッターが打席に立ったときには、走者の有無にかかわらず、外野手を定位置から大きく後ろに下げさせた上で、ポジショニングさせたのだ。 甲子園には、外野手にフェンスが近いことを知らせるために、フェンスから幅4.5メートルの「ウォーニングゾーン」が設置され、そのゾーンは人工芝になっており、天然芝との切れ目には、白線も引かれている。 外野手は、そこから2メートルほど前。定位置からは3メートル近く後ろになるその位置に、守備位置を取った。もちろん三塁打を二塁打に、二塁打をシングルで止めるという狙いもあるのだが、合わせて、ライトからレフトへの浜風が強く吹く夏の甲子園で、その慣れない環境も相まって、長打のある打者の高く上がったフライは、背走しながら追うよりは、自分の“前”に向かって捕りに行く方がより安心でもある。 ただ、この場合だと、内野手の背後と外野手の前が大きく空く。つまり、ヒットゾーンが広くなり、詰まった当たりが内外野の間に落ちるポテンヒットの可能性も高まってくる。 中村は、だから「若干、二遊間寄りの、後ろ気味に守りました」と明かす。 「自分は、肩にも自信があるので、後ろのフライを警戒しながら、前のゴロにも警戒するという守りでした。三遊間には自信があったので」 打力では中京大中京に劣るという、自分たちの“弱み”は分かっている。だから、まず失点を避ける。そのために、長打はできるだけ防ぎたい。その大胆な守備シフトが、いきなり一回から実を結ぶシーンがあった。
アクシデントにより試合が6分間中断
1死一、二塁の場面で、打席には4番・杉浦正悦を迎えた。愛知県大会での打率.476を誇る強打者に対し、外野手は事前の準備通りに“フェンス手前”まで下がった。 2球目に二走が三盗に失敗。2死一塁になったが、長打なら当然ながら先制点を許してしまうシチュエーションが続く。3球目を捉えた杉浦の一打は、鋭いライナー性の当たりとなって、左中間へ飛んで行った。 「あれ、定位置だったら、外野の頭を超えていると思います。そういう意味では、いい守備シフトが取れたのかなと思います」 中村がそう振り返った“あわや左中間突破”の一撃は、深めのポジショニングだったセンター・小倉侑大がランニングキャッチ。「粘り強く守備をしてくれました。もう、宮崎県大会から、こんな試合展開が多かったんで」という橋口光朗監督も、ベンチから打者ごとの守備隊形を、大声と身ぶりで指示し続けた。 そのきめ細かい戦いぶりでピンチの芽を摘んでいった宮崎商は、2点を追っての6回に追いつくと、7回には4番・上山純平の左前打で勝ち越し。一度は3-2とリードする展開に持ち込んだのだ。 ただ、思わぬアクシデントが襲ったのは、その勝ち越した直後の7回だった。中京大中京の1番・神谷倖士朗の当たりが、ショート・中村の後方付近にふらふらと上がった。 「自分と(二塁手の)甲斐(夢都)の守備範囲は広いというのがあるので、小フライとか、あの時のような高いフライが少し風で戻されるような打球とかは、全部自分たちが追って行って、声を掛け合うというところも(練習や試合で)やってきたんで」 中村が、体を捻りながら、背後に飛んだ。しかし、センターとの間にポトリと落ち、滞空時間の長かった当たりゆえに、神谷は二塁を陥れた。 その時、中村の左足がつった。治療のため、ベンチ裏に下がった。試合が6分間、中断された。 「あの治療の場面から、ちょっと流れが変わってしまったところがあったので、そこに関しては、チームメートに申し訳ないという気持ちです」