英国のEU離脱 ヨーロッパ大陸を襲う“第二波”
残留派と離脱派が最後まで拮抗した状態で6月23日に行われたイギリスのEU離脱を問う国民投票では、最終的に離脱派が残留派に120万票以上の差をつけ勝利した。イギリス社会の分断や、ヨーロッパ大陸との溝の広がりが懸念されるなか、イギリス国内では東欧出身者に対するヘイトクライムも横行している。各国のナショナリズムから景気の停滞、ヨーロッパ全体の安全保障まで、イギリスのEU離脱は新たな問題も引き起こしている。
アイルランド統合? 英連合王国は消滅の危機
イギリス全体では離脱派の勝利となったが、各地域に目を向けると、様相は少し異なる。スコットランドでは「残留」に投票した有権者が62%に達していた。北アイルランドも、55.8%が「残留に投票」。一方、ウェールズは52%で離脱派の勝利。ロンドンをのぞいたイングランド全体では57%が「離脱」に投票したが、ロンドンのみで見ると「残留」に投票した有権者が約60%に達した。
残留派が過半数を超えたスコットランドとアイルランドでは、イギリスからの独立を求める国民投票を行い、その後EUに再加盟すべきとの声が上がっている。とりわけ、宗派間対立とイギリスの介入によって南北を分断されているアイルランドでは、北アイルランドがイギリスから独立した後、アイルランドと統合すべきだとの声が日増しに強まっている。 前回の記事で、北アイルランドのベルファストに住むミュージシャンのクリス・マッコリーさんは、イギリスの有権者がEU離脱を選択した直後の町の様子について語ってくれた。その際に、マッコリーさんはアイルランドのパスポート申請を行う予定があると語ったが、マッコリーさんのような人は珍しくない。英テレグラフ紙によると、国民投票の結果が出た6月24日、北アイルランドではアイルランドのパスポート申請に関する問い合わせが急増したのだという。 52%で離脱派が勝利したウェールズでは、地域政党「プライド・カムリ」のリアン・ウッド党首がウェールズ独立に関する議論を住民の間で行う時が来たと発言。プライド・カムリはウェールズ独立を目指す政党で、欧州統合の賛成派でもあるが、ウェールズ議会では約4分の1の議席を獲得している。ウェールズの独立を求める声は、2014年に行われたスコットランド国民投票で独立派が敗北した直後にわずか3%にまで低下したが、イギリスのEU離脱によって経済的な打撃を受けるのは必至とされる中で、今後の動きが注目される。 「離脱派」と「残留派」の対立に加えて、イギリス国内では移民に対する嫌がらせが目立ち始めた。これまでにもイギリス国内ではイスラム教徒に対する嫌がらせが頻繁に発生していたが、新たなターゲットになったのは「ヨーロッパの仲間」であるはずの東欧出身者達であった。