列車接近を検知するアプリ 作業員の安全向上へ 静岡鉄道が開発協力
静岡市内を走る「静岡鉄道」(略称・静鉄(しずてつ))が線路工事の作業員を事故から守ろうと開発に協力した「列車接近検知アプリ」がリリースされた。5G通信とGPS(全地球測位システム)による位置情報を利用し、大手鉄道会社が採用する方式より簡易でコストが大幅に抑えられる。同社は「全国の中小鉄道でも安全の向上に役立てる可能性がある」と期待している。 開発を手掛けたのは情報技術企業の「リアルグローブ」(東京都千代田区)。作業員が気付かないまま列車が接近する「ヒヤリ・ハット事例」があり、対策に悩んでいた静鉄の求めで、アプリを考案した。 静鉄は新静岡(葵区)―新清水駅(清水区)間の11キロを6~15分間隔で運行。夜間作業は騒音などが問題となるため、日中もほぼ毎日、レールや架線、踏切などの工事や点検を行っているという。作業員は列車が通過する合間を縫って線路内に入り、見張り員はそばに立って接近を目視で覚知して笛などで知らせ、待避させる。 そのため、見張り員は集中力の持続が求められ、精神的な負担が重い。さらに、作業の不具合など不測の事態が起きると、一時的に注意力がそがれることもあるという。 今回開発されたアプリ「トレりん」は、スマートフォンにインストールして各列車に配備し、見張り員側も所持する。見張り員は当日の作業内容や現場の見通し条件などに応じて、列車が何メートルまで近づいたら知らせるかをあらかじめセット。スマートフォンと連動させたスマートウオッチの振動で接近を知る仕組みだ。大手鉄道会社が使用している、レールなどからの電気信号とダイヤを複雑に連携させるシステムよりも低コストで導入できるという。 線路内での保守作業では、10日未明に浜松市中央区のJR東海道線高塚駅付近でレールの溶接をしていた作業員が運行中の貨物列車と接触して死亡する事故が起きている。約1年半にわたるアプリのテスト運用やデータ提供で開発に協力してきた静鉄の海野宅朗・安全推進課長は「今後も従来通り見張り員を配置して目視での確認は続ける。アプリの導入による二重の安全確保で事故防止を徹底する」と話す。【丹野恒一】