「大相撲秋場所が10倍面白くなる」技以外の決まり方も5種ある?実況40年の元NHK藤井康生アナが“奥深すぎる決まり手ベスト5”を徹底解説/『MonoMaxお相撲同好会』
[決まり手3位/叩き込み(はたきこみ)]パッと下がる&下がりながらの2パターン
お相撲同好会 「叩き込み(はたきこみ)」は、ちょっとフェイントっぽいイメージがあります。 藤井 そうかもしれません。相手を押し込んでおいて、パッと引くという取り口ですからね。まず、自分が相手を押し込むと、相手は何とか体を残そうと前寄りに重心をかけてきます。その瞬間にパッと手元の方に引いて、前につんのめった相手の肩や背中を叩くというのが「叩き込み」です。 お相撲同好会 そのパッと引くというのが、フェイントっぽく見える理由かもしれません。 藤井 それは、攻め込んでおいてからの、一瞬パッと引く「叩き込み」かと思いますが、相手に押し込まれて一旦後ろに引いて逃げているときや、体勢を変えるために下がっているとき、追ってくる相手を下がりながら叩く「叩き込み」もありますよ。
[決まり手4位/突き落とし]土俵際の攻防の妙
藤井 一言で言うと、横から相手を崩す動きが「突き落とし」です。肩口であったり脇腹であったり、相手の体の横側を手のひらや腕で押して、下に向けて倒す取り口です。狙って出す場合もありますが、土俵際まで攻め込まれて、どうしようもなく横に逃げたら逆転勝ちしたとき、「突き落とし」になることがありますね。 お相撲同好会 逆転技なんですね。 藤井 逆転技とも限りません。これもパターンがいろいろあって、相手を土俵際まで攻め込みながら、右または左から崩して、相手がバタッと倒れたら、これも「突き落とし」です。 お相撲同好会 なんだか「叩き込み」と似ているような……。 藤井 似ていますが、「叩き込み」は相手をほぼ上から叩き落とすという動きで、横から落とすのが「突き落とし」です。
[決まり手5位/上手投げ]豪快さだけでなく、まわしを取る位置にも注目!
お相撲同好会 そもそも、相撲の上手・下手が曖昧です……。 藤井 相手の脇の下に手が入っていれば、その入っている方が下手です。ですから、相手の腕の外側からまわしを取れば、「上手を取りました」とか「上手まわしをひきました」という言い方をします。また、両方の手が相手の脇の下に入っていると「もろ差し」。両方の手が相手の腕の外側からまわしを取ったら「外四つ」といいます。 お相撲同好会 では、左上手、右上手といいますが、それは、それぞれ相手の腕の外側からまわしを取った状態なんですね。投げ技もいくつかあるなかで、どうして上手投げが多いんですか? 藤井 ちょっと専門的になりますが、相手のまわしを取るとき、どのあたりを取るかによって力の伝わり具合が変わってきます。そこで、上手はまわしの前のあたりを取るのがいいとされているんです。例えば、左上手で相手のまわしの前あたりを取ってしっかりしめつけると、下手の位置にある相手の右手がうまく使えなくなります。専門用語で「右手を殺す」といった言い方をします。 お相撲同好会 「相手の腕をうまく殺しています」といった解説を聞いたことがあります。 藤井 物騒な言葉ですが、専門用語としてそういう言葉を使うことはありますね。このように、いい位置の上手を取ると相手の動きを封じ込められて有利な体勢を作れるというのはひとつあると思います。また、土俵際でお互いが投げを打ち合うという場面がありますが、その場合も、外側からまわしを取っている上手の方が強いんです。8割がた、上手のほうが有利だと言っていいかと思います。まわしを取る位置にもよりますが、やはり投げ技では、一番相手を倒しやすいのが上手投げということだと思います。 お相撲同好会 なるほど! 藤井 でも、「投げに頼らず、相手を外に出す相撲を取りなさい」と指導する親方が大半です。力士が大型化して投げが決まりにくくなりましたし、無理に投げようとするのは怪我につながりますし、いろいろな理由があるのでしょうね。
勝負の行方が相撲の醍醐味であるのはもちろんのこと、代表的な決まり手がわかると、決着がつく前の動作と行動の意図がわかり、相撲がより一層味わい深くなる。力比べだけでなく、力士同士の駆け引きも楽しもう! 藤井康生さん 1957年生まれ、岡山県出身。1979年にNHKに入局。スポーツ担当アナウンサーとして、特に大相撲の実況を数多く担当する。2022年にNHKを定年退職し、フリーアナウンサーへ。ABEMAの大相撲中継で実況を担当するほか、自身のYouTubeチャンネルなどで相撲の魅力を伝える。大阪学院大学特任教授。 インタビュー/金山 靖 撮影/坂下丈洋(BYTHEWAY) イラスト/ヤマサキミノリ
MonoMaxWeb編集部