相手を二度“負かす”棋士の一人・藤井聡太。「こいつには勝てない…」と思わせることもある盤外戦術のひとつ・感想戦の楽しみ方
対局中の熱い戦いは将棋ファンだけでなくとも、思わず見入ってしまうこともある。 しかし“将棋大好き芸人”のランパンプス・寺内ゆうきさんは、対局後の感想戦も見逃せず、それはまるで「口喧嘩」でもあるとする。 【画像】将棋の魅力がもっと伝わる一冊、『知るほど観たくなる将棋』 将棋を深く知らなくても楽しむことができる感想戦の見方を著書『知るほど観たくなる将棋 ドラマティック将棋論』(扶桑社新書)から一部抜粋・再編集して紹介する。
感想戦は口喧嘩
将棋は対局後も面白いんです。他のスポーツにはないイベントがあります。それが「感想戦」です。 今まで対戦していた相手と対局を最初から振り返り、「あそこでこうしたらどうだった?」とか、「この場面ではこの手を指されたら困ってたよ」などと話し合うのです。 すごいですよね。お互いが強くなるために反省会をするんです。棋士たちはもちろん勝利を目標にはしていますが、「いい将棋を指したい」と常に思っているんです。 だから、今日よりいい将棋を指すために対戦相手と感想戦をするわけです。 当然、棋士は自分が指した手をすべて覚えていますから、序盤の定跡と言われる部分はスラスラと進みます。中盤の仕掛けあたりから、「この場面でこの手を指していたら?」という“if(もしも)”へと話を進めます。 ある程度進めてお互いの納得がいくと、本譜に戻ります。本譜とはその日指された実際の進行のことです。 時にはお互いの思考がぶつかり本譜から脱線しすぎて、こうなったら別の将棋なので今日はこの辺で……といった感じになることもあります。
対局で負けて感想戦でも負けて…
大山康晴十五世名人という方がいらっしゃいました。将棋界では知らない人がいない、めちゃくちゃ強い棋士です。この方と対戦すると「二度負かされる」と言われていました。 それは対局で負けた後に感想戦でも負かされるからです。 感想戦で負けるとは?と思う方もいるでしょう。感想戦という言葉には戦という文字が含まれていますよね。そう、これも戦いなんです。 どういう戦いかというと、棋士のプライドとプライドの戦いです。その対局で自分が最善だと思った指し手ですから、当然指した方には主張があるわけです。ただ大山先生は自分の主張を譲らず、相手より精神的に優位に立つという盤外戦術を施していたそうです。