ドラマ〈未成年~〉柴田啓佑監督が語る話題のシーンの裏側「2人はその時々の役の感情に入り込んで自然にキスをしていて、その美しい姿をカメラが追っている」【インタビュー後編】
本島純政と上村謙信(ONE N' ONLY)がW主演を務め、繊細な人間ドラマとBL描写が注目を集めているドラマ「未成年~未熟な俺たちは不器用に進行中~」(毎週月曜深夜1:35-2:05、読売テレビ)。前編では、ドラマの始まりから主演の2人の印象や撮影現場での様子を聞いてきたが、後編では、話題となったシーンの裏側、今後の展開、作品への想いをたっぷり話していただきました。 【写真】独占オフショットなどドラマの場面写真26枚 ■ まだキスではないんだけど、“ほぼキス”みたいに見えたらいいなっていう思いで撮っていきました ――放送後に話題になったシーンの裏話も聞かせてください。まずは第1話、夜中の公園で蛭川の頬に手を当てながら水無瀬がペットボトルの水を飲ませるシーンはいかがですか? あの水を飲ませる場面は、もはやキスシーンみたいなことだと思っていて。水無瀬が先に飲んでいた水だから間接キスなんです。あそこから蛭川が水無瀬の何かを壊していくというか、境界線を飛び越えていく…という展開になっていくので、すみません、シーンの裏話から一旦逸れるのですが“今作のモチーフは水だな”って僕は思ったんです。 ――学校の水飲み場や水しぶき、海など、確かに“水”がさまざまな場面に印象的に登場します。 1話冒頭のシーンも「海がいいんじゃないですか? そういう場所から始まりたいです」というお話を僕からさせてもらった覚えがあります。そこから、海や川、水場とか、いろんなロケ地を水を意識しながら探していって。あのいつもの公園も「どうしても水と遊具があるところがいいんです」と僕が最初に希望を出したんです。でもなかなか見つからなくて、見つかった瞬間は、ここだ!と思いましたね。実は公園の遊具も、既に気付いている方もいらっしゃるかもしれないですが、引きで見ると船の形をしているんです。船は後々の台本ともリンクしていて、たまたま見つかったとはいえ運が良かったなと思います。 ――ものすごい“引き寄せ”ですね。 そうなんです。…で、話を戻すと、1話の水を飲ませるシーンは蛭川が既に水無瀬のことを好きなんです。というのが後で分かるんですけど、1話を見た方が“おや、これはどういうこと?”と気になるようなフックを残しておかなきゃいけないので、ただ水をあげるだけなのですが、どう印象的に撮ったらいいかなっていうのは考えました。 ――2人の距離が初めて少し縮まるシーンで、その映像美にも引き込まれました。 水無瀬って普段から男性に対しても女性に対してもあまり触れたりすることをしないというか、できないと思うんです。そういう未成年ならではの人との距離感みたいなものを意識しながら、まだキスではないんだけど、“ほぼキス”みたいに見えたらいいなっていう思いで撮っていきました。 ■ 美しい2人のキスシーンは、より大事に美しく撮りたいというのをカメラマンさんと話していた ――第2話は恋愛映画を一緒に見ているときに蛭川が水無瀬に初めてのキスをしました。 突然のキスですね。あれはもう蛭川の“好き”が溢れているように見えるといいなって。少し話は逸れますが、さっきのフックじゃないですけど、ここも“蛭川の行動にいろんな布石を残して物語を進めたい”という狙いが出ているシーンなんです。深夜ドラマってSNSと相性がいいと思っていて、皆さん結構、考察をするじゃないですか。「蛭川はこういう感情なんじゃない?」って誰かが書き込んだら共感が溢れたり、別の意見も出たりして盛り上がっていく。そういう風になっていくのも今作の面白さかなと思ったので、蛭川側の“燃料”は序盤で常に投下していくイメージでした。水無瀬に関しては4話で初めて水無瀬側から開く感じになって、そこにもまた“あれはどういうことなの?”というハテナが生まれた。そういうのを演出的に散りばめることによって、今回のドラマはあっさりして見やすい作品でもあるけど、考えたい人には深く考察できる余白のあるものにもなっているんじゃないかと思います。 ――キスシーンはどの程度、監督が演出をつけているのですか? 僕からも少し言いますけど、基本は2人に委ねています。本人たちがアイデアを持ってきてくれることも結構あるんですよ。カメラの向きとか物理的な問題でそれが生かせないこともありますが、基本的にはそのシーンで描きたい狙いも合っているので「それいいね!」って。現場で何度かテイクを重ねたのは最初だけです。突然キスをされた水無瀬が目をつぶったときに「それだと受け入れているように見えるからポカーンでいいよ」と言ってやり直したり、そういうのをちょっとやったぐらい。あとは見え方の調整によるものです。この作品は全体の映像のトーンもキレイなのですが、美しい2人のキスシーンは、より大事に美しく撮りたいというのをカメラマンさんと話していて。語弊があるかもしれませんが、僕は今回、鬱々としたというか、しっとりした質感のBLを撮りたいと思っているんです。2人はその時々の役の感情に入り込んで自然にキスをしていて、その美しい姿をカメラが追っているという感じです。 ■ 大変なシーンのときにどちらかがふと駆け寄って「お疲れ」って言ったりすることもあって、すごくいい2人だなって思って見ていました ――第4話の、溶けたアイスを持つ水無瀬の手に蛭川がキスをするシーンも大反響でした。 あれは確か台本になくて。4話は、もう一人の監督の牧野(将)さんが担当されていたんですけど、現場での牧野さんの演出だったんじゃないかな。オシャレですよね。 ――全体的なキスシーンのこだわりはいかがでしょうか? キスのバリエーションは牧野さんと「全部変えましょう」という話をしていて。1話の水(の間接キス)、2話のあごの引き寄せ、4話のアイスのキス…とか、やり方もキスの意味も毎回変えているんです。どちらからのキスか、目をつぶるかつぶらないかでも全然別物になりますし。ただキスをするというステレオなBLではなく、キスシーンもちゃんとお芝居の一部であるものにしたかったので、キスという“形”を求めるのではなく、その意味の中からやれることを探して新しいキスを作っていった感じです。ちなみに、僕の監督回と牧野さんの回ではキスシーンもまた違うものになるんです。個人の癖が出るといいますか(笑)。些細なところですけどそれが面白いなって思いますし、“これは思いつかなかった、悔しい”っていうのもあります(笑)。 ――本島さんと上村さんはクランクイン前からカラオケや韓国料理屋に行くなどして親交を深めたそうですが、現場の2人の雰囲気はいかがでしたか? 彼らは本当に仲がいいです。気が付いたら一緒に写真を撮っていて、今じゃなくてもいいでしょ!みたいなこともあったりして(笑)。もちろんそれを後々ドラマの宣伝としてSNSに上げてくれたりするんですけど。あとは大変なシーンのときにどちらかがふと駆け寄って「お疲れ」って言ったりすることもあって、すごくいい2人だなって思って見ていました。濃い時間を共にする中で、彼らは恋愛ではないですけど、友情が生まれているなって。それはそれで素敵な感じだったし、支え合ってやっているんだなと思いましたね。 ――19歳の本島さんと25歳の上村さんは実年齢6歳差。意外と離れているんですよね。 でもあんまりそういう感じもなくて。本当に、気持ちを一つにしてやってくれていたと思います。 ■ 自然体なんですけど、2人がちゃんと肩を組んでやっている感じが素敵でした ――カメラの外など、役から離れた彼らと接する中で印象的だったことはありますか? 本島くんは、先ほど言ったような真面目で真っすぐな部分もありつつ意外に抜けているところがあって。“天然の極み”みたいな感じで、現場で結構それを爆発させていました(笑)。子供みたいに無邪気な瞬間を見ると、やっぱりまだ19歳だなって思いましたし、自分なりにしっかりしようとしている姿を見るとかわいいなって感じます。 ――上村さんもそんな本島さんがかわいくて仕方がないという感じですよね。 インスタライブとか見ていてもそうですよね。上村くんは、クランクインの前日に電話をくれたんです。「こういうところに悩んでいて、今、電話してもいいですか?」って。それはちょっと意外でした。実際の2人は役の印象と逆なんです。意外にドーンとしているのが本島くん、ちょっと気にするのが上村くん。たまにLINEをするときがあるんですけど、そこでも彼らのテンション感が全然違っていて面白いです。でも2人ともピュアでかわいくて、擦れていない感じがいいですよね。何事にも真っすぐ向かってくれる2人だったっていうのは今回すごく良かったなと思いますし、作品への熱量が常にMAXの状態で最初から最後までいてくれたのもありがたかったです。 ――スケジュール的にタイトな現場だったとお伺いしましたが、2人は常に全力でしたか? 多分、こんな現場は初めてだったんじゃないかなっていうぐらい厳しかったと思うんです。しかも2人とも合間に別の仕事もあって、休むに休めない中だったんですけど、疲れも全然感じさせず、心が折れることもなく。そういう主演の頑張る姿があると、スタッフもやっぱり盛り上がるんですよね。前に出て「やるぞ!」というタイプではなく自然体なんですけど、2人がちゃんと肩を組んでやっている感じが素敵でした。 ――SNSのメイキング動画を見ると、ちょっとした待ち時間にもじゃれ合っている2人が微笑ましいです。 終始そんな感じでした。何気ない時間も隣にいるって、本当に仲がいいですよね。ただ、撮影順の都合で話が行き来するので、カメラの外ではわちゃわちゃしていても撮影が始まったら水無瀬と蛭川の距離感はちゃんと意識してもらっていました。「その親密なテンション感のまま、2人の距離が離れるシーンに行くのはダメだよ」とか。 ――2人とも監督の指示がすぐに入る勘のいいタイプなのでしょうか? そうですね。一度言えばすぐ理解してやってくれていました。ちなみに、本能タイプが上村くんでロジックタイプが本島くん。逆に思うんですけどね。上村くんはアーティストだからやっぱり感覚が冴えるところがあって、本島くんは割と頭でお芝居をするんです。 ■ ワンエン(ONE N' ONLY)の曲(SAVIOR)の通り、救いのある話になったらいいなって思います ―3話では、上村さんと同じONE N' ONLYメンバーの沢村玲さんと関哲汰さんの友情出演も話題となりました。 蛭川が出入りしているビリヤード場のシーンですよね。不良仲間の役で出ていただきました。2人とも現場では「よろしくお願いします!」という感じで、普通にイチ役者として来て真摯に臨んでくれていました。あとは上村くんが愛されてるなっていうのも感じましたね。2人が「謙信をよろしくお願いします」なんて言ってくれて。 ――上村さんはメンバーと共演してどんな様子でしたか? うれしそうでしたよ。デレてるというか。ビリヤード場は割と大変で重いシーンが多いので、実は切羽詰まっていたかもしれませんが(笑)。 ――主題歌や劇中の音楽もすごく胸に沁みます。ドラマにマッチしていますよね。 劇中の楽曲は、主題歌とは別に作品を表すメインテーマのようなものが一つ欲しいと思ったんです。女性の歌っている声が楽器のように聴こえる、水無瀬と蛭川の間の儚さを表現したような本当に素晴らしい音楽を作っていただきました。初めて聴いたとき泣きそうになりました。ドラマの中で流れるタイミングもすごくいいんです。今回のスタッフは本当にみんながこの作品を愛してくれている人たちで、音楽もすべてがうまくハマっているんです。当たり前ですが、僕が一人で作っているわけじゃないし、スタッフの皆さんの素晴らしいアイデアや力があってこのドラマができているなと思います。 ――ONE N' ONLYの「SAVIOR」が流れるオープニング主題歌のタイトルバックも凝った仕上がりですよね。 あれもカッコよく作ってくださっていますよね。CGまでいかないけど、いろんなエフェクトを使って仕上げてもらっています。実はあのオープニングの映像は終盤で少し変わるかもしれないんです。登場人物たちの年齢が上がるタイミングでちょっとした仕掛けを考えているところです。エンディング主題歌の「花瓶」(ココラシカ)もいいんですよね。僕、いつも感動してて。タイトルにちなんで作品の中にこっそり花瓶を置いていたりするので、良かったら探してほしいです。 ――今回のインタビューは第8話のオンエア終了後に公開されます。残り2話の見どころを教えていただけますか? 8話までで2人の初恋や初めてのいろんな感情が描かれて、9・10話では2人がその初恋をどう心に抱いて大人になっていくか…というのが描かれます。初恋って、みんなそうだと思うんですけど、心にグッと残っているものじゃないですか。それを糧にしている人もいれば、傷として残っている人もいて…。そういう恋愛を経験した2人がどんな人生を歩んでいくかというのを見届けていただければと思います。 ――2人の恋の結末と、人としての成長物語が気になります。 ワンエン(ONE N' ONLY)の曲(「SAVIOR」)の通り、救いのある話になったらいいなって思います。でも、どういう結末であれ、未成年ならではの揺らぎや、もやっとした噛み砕けない時間があって人は大人になっていく――という僕の今回描きたかったテーマは描けたかなと。絶対的なハッピーエンドがハッピーエンドではないと思っているし、大人になっていく上で乗り越えていくものや、そこで見つかる大事なものが最終的に伝わるといいなと思って最終回まで作りました。ぜひ最後まで、水無瀬と蛭川を見守っていただけるとうれしいです。 取材・文=川倉由起子