米津玄師、新曲「がらくた」を生んだ体験とやさしさ「壊れていても構わない」伝えたかった言葉
さらに「『壊れている』と呼ぶかどうかはわからないけれど、自分にも傷がついて戻らないものもある」とも。「子どもの頃から、周囲に馴染めないことがあると『自分がどこか間違っているんだ』と思うタイプでした。大人になるにつれてだいぶ和らいできましたが、そうやって生きていた記憶を思い返しながら、曲に向き合っていました」と実感が込められているからこそ、またより深い味わいと思いやりの伝わる曲になっているのだろう。
なぜ米津玄師の解像度は高い?
「Lemon」は、死者の声に耳を傾け、彼らに思いを馳せる「アンナチュラル」の登場人物の心情にぴたりと重なる。「感電」を聴けば、不条理な事件を目の当たりにしながらも、手を取り合って解決のために駆け抜ける刑事たちの姿が思い浮かんでくる。米津の手がける主題歌は、SNSなどでも「作品への解釈と解像度が高すぎる」という声が上がるほど、その世界観を見事に表現している。 そういった評価を受けることについて「どちらの作品でも曲を本当に大切に扱っていただいて、考え抜かれた良い部分で流していただいた。ドラマサイドの手腕が大きいと思います」と感謝した米津は、「音楽ってちょっとずるいところがあって。多様な捉え方ができるものなので、極論として、痛烈なワンフレーズがあって、それが相手に伝わればいいようなところがある。あとは、皆が自由に想像したり、足りない部分を補完してくれるので」とにっこり。「もちろんそこには、『納得いくものしか出さない』という気持ちがあります」という熱意が製作陣と響き合うことで、観る者の想像や感情までを引き出す楽曲が生まれている。
塚原&野木&新井チームの作品は、今の社会を見つめながら、その歪みの中で孤独を感じたり、もがきながら生きている市井の人々に光を当てている。『ラストマイル』でも心を込めて仕事に励みながらも、道に迷ってしまう人たちの姿が胸に迫る。
塚原&野木&新井チームの作品に取り組む姿勢について、米津は「とても誠実」だと印象を口にし、「『ラストマイル』もポップコーンムービーとしての側面を持ちつつ、人々のやりきれなさのようなものをしっかりと描いている。生きているとどうしても割り切れないことや、うまくいかないこと、自分ではコントロールしきれないようなことに直面するもの。エンタメだとしてもそういったものを直視し続けて画に残すというのはとても誠実で、同時に体力のいることだと感じます。純粋にリスペクトしていますし、ものを作る人間として見習うべきところだなと思っています」とまっすぐな瞳を見せる。孤独や喪失感にも目を向けるというのは、米津の楽曲にも通じるもののように感じる。米津は「共通している部分かもしれません」とうなずき、「音楽を作る上では、割り切れないものや後ろ暗いものを通さないと、どうしても信用ならないところがあって。パッと光輝くものがあるとすると必ずそこには影ができるし、影があるからこそ、そこに強い光があるんだと実感できる。その両面を残しておきたいなと思っています」と語った。
アルバム「LOST CORNER」は「がらくた」「地球儀」「M八七」「さよーならまたいつか!」「KICK BACK」など全20曲。 「米津玄師 2025 TOUR / JUNK」開催 映画『ラストマイル』は全国東宝系にて公開中