米津玄師、新曲「がらくた」を生んだ体験とやさしさ「壊れていても構わない」伝えたかった言葉
今回書き下ろした「がらくた」は、製作チームからどのような要望を受けて誕生させたものなのだろうか。米津は「彼女たちの作品は、爽快なエンタメでありながら、根っこには社会問題などが明確に横たわっている。ともすれば暗く重たいものになってしまうかもしれないけれど、塚原監督が『ポップコーンムービーでありたい』とおっしゃっていたことはすごく覚えています」と回想。その上で、本作の主人公で、「取り扱う荷物に爆発物が潜んでいるかもしれない」という危機に直面する巨大物流倉庫のセンター長・舟渡エレナ(満島)と、チームマネージャーの梨本孔(岡田将生)の関係性を想起しながら、曲作りに励んだと語る。
「一度作ったものを提出させていただいたところ、『これではない』という判断で」と再チャレンジが必要だったと明かした米津。「最初に作っていたのは、低いキーで歌い、なおかつ縦に乗れるようなダンスビートの曲でした。どこか都会的でクールな側面のあるもので、個人的にはこの映画に合うものだと思って提出をして。それが違うとなると『どうしようかな』と空中を見つめるような瞬間がありました」と柔らかな笑顔をのぞかせるが、それもチームでものづくりをする醍醐味だという。すべて作り直したことで「映画に合わせた曲を作ろうとしつつ、同時に自分の実体験や周囲で起きていた出来事が色濃く反映された曲になった気がしています。提出したところ、『これですね』という返事をいただきました」と道のりを振り返る。
楽曲を生んだ思い出
完成したのは、傷つき、どこか壊れてしまった人に寄り添い、壊れていても構わないから「僕のそばで生きていてよ」と語りかけるやさしい楽曲だ。次第に明らかとなる劇中の登場人物たちの痛みだけではなく、日々を頑張って生きる人々の背中にそっと、温かく触れるような曲でもある。 米津は、曲作りをしながらある友人を思い浮かべていたという。「以前、友だちが精神的にまいってしまったことがあって。その当時、会話をしたことがとても記憶に残っています。友だちは『自分は壊れていない』ということを繰り返し言っていて。それをみなまでは否定せずに聞いていたんですが、家に帰ってからもいろいろと考えて、ふと『壊れていてはいけないのだろうか』と思ったりして。確かに、『壊れている』ということを認めてその烙印を押されてしまったら、周囲から冷たい目線を向けられてしまうということも想像に難くないので、『自分は壊れていない』と言いたくなる切実な感情もとてもよくわかります。でも、果たしてこの世に壊れていない人間がいるのだろうかと考えた時に、そんな人は一人もいないなと思った。みんなどこかしら壊れているし、ノーミスで完璧に生きている人なんていない。誰もが壊れている部分を抱えて生きているわけだから、友だちにも『壊れていてもいいじゃないか』と言ってやれたらよかったのかなと強く思った。そういった経験と、映画を観た時の感覚をかき混ぜて出来上がったのが『がらくた』です」。