梅毒感染拡大に危機感 ~若者向けのイベントで啓発~
古くから知られ、最悪の場合は死に至るケースもある性感染症、梅毒の患者が急増している。厚生労働省の調査によると、2015年前後から急増し、男性が10倍、女性は23倍になったという。年代別で見れば女性は20~30代が、男性は20~50代が多くを占めている。 梅毒は感染しても免疫が獲得されず、何度でも感染してしまう。また原因菌の培養もできないためにワクチンも開発されていない。治療薬はあるが、予防は個人の性的行動時における自衛策しかなく、難しい面がある。専門医は、若い世代への啓発を目指して新しい取り組みを始めている。
◇患部のしこりが感染の兆候
梅毒は「梅毒トレポネーマ」という細菌が性器や口などによる性的接触で感染し、感染直後に患部にしこりや潰瘍ができるが、発症後約数週間でこれらの症状は自然消失してしまう。ただ、自然治癒したわけでなく、菌は症状を生じさせずに全身に拡散・増殖していく。このため、自覚なしに症状が進行してしまう危険が残されてしまう。 「梅毒が怖いのは、感染しても免疫が獲得されずに何回でも感染してしまうことと、感染後、数年から数十年後に心臓や脳などに障害が生じ、死亡してしまうことだ。これは、いわば、『晩期の梅毒』と言ってもよい。これと並んで怖いのが、女性が感染中に妊娠した場合、胎盤を通して出産前の胎児も感染して重い障害をもたらす『先天性梅毒』だ」 愛知医科大の三鴨廣繁教授(臨床感染症学)は、こう強調する。
◇対策周知が課題
抗菌薬のペニシリンという特効薬の登場もあって減少傾向にあった梅毒だが、近年は患者が増加。特に13年から18年にかけて、1228人から7007人に増えた。三鴨教授は「病気の感染経路も治療法も分かっているのだから、あとは対策を周知するだけだ」とした上で、「国や自治体も講演会や啓発ポスターの掲示など啓発に取り組んでいるが、今ひとつ効果が上がらないのが実情だ」と嘆く。 検査を受けて診断されれば、ペニシリンの注射か錠剤の4週間服用によって治療できるだけに、早期診断の効果は大きい。病気についての知識の無さが、その利点を生かし切れていない。特に大事な点は、梅毒の患者の多数を占める若年層も、この病気の恐ろしさを知らないことだ。 そこで三鴨教授が企画したのが、助産師で性教育に取り組むユーチューバー(YouTuber)とのトークセッションで、東京・銀座で開催された。