ウォール街に定着した「ブラック・スワン」戦略 「暴落時費用対効果」を常に得られるポジション
新型コロナ・パンデミックに市場が揺れる2020年3月。投資顧問会社ユニバーサ・インベストメンツは4000%を超えるリターンを叩き出した。多くの投資家が匙を投げ、多額の損失を被るなか、なぜユニバーサは莫大な利益を生み出すことができたのか。このほど上梓された『カオスの帝王:惨事から巨万の利益を生み出すウォール街の覇者たち』では、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙記者の著者スコット・パタースンが、ユニバーサの最高投資責任者マーク・スピッツナーゲルと、ベストセラー本『ブラック・スワン』の著者ナシーム・タレブが確立した投資戦略とその哲学に迫っている。本稿では、同書の一部を抜粋した第3回目をお届けする(全3回。第1回はこちら、第2回はこちら)。 スピッツナーゲルが示す投資の世界観
■「暴落時費用対効果」 ユニバーサが4000%を超える利益を上げたという話が伝わると、ウォール街中のライバル・トレーダーたちは驚いたが、その驚きには羨望とともにアーロン・ブラウンのような不信も混じっていた。 平均的な株式主体のヘッジファンドは、ゴールドマン・サックスによれば、3月中旬には14%の損を出していた。他のリスク緩和戦略も痛手を被っていた。株式と債券は同時に下落し─―通常であれば両者は正反対の動きをし、投資家にとって暴落時の防衛手段となる─―、多くのアメリカ人が老後の頼りにしている株式6割・債券4割の典型的な投資ポートフォリオの価値を無残に引き下げた。
ユニバーサは単に運に恵まれただけではないか。スピッツナーゲルは、ビル・アックマンと同じく新型コロナにパニックを起こし、市場が暴落するほうに大きな賭けをしたのではないか。 そうではない。ユニバーサは暴落時に莫大な収益を上げるポジションを常にずっと取っていた。なぜなら市場はいつなんどきでも、前触れなく暴落する可能性があるからだ。暴落がいつ起きるかは誰にも予測できない。だからユニバーサに資金を預ける投資家は暴落を心配する必要がなかった。同社の顧客は夜に安眠できた。