平安期日本が未知の敵「刀伊」を撃退できた戦術・戦略的理由とは。『光る君へ』で竜星涼さん演じる隆家の発言に見る<来寇の脅威>と<紛争勃発の懸念>
◆国力の劣等意識 10世紀以降の新羅来寇事件も重なり、わが国は対外的には消極外交にあった。 当初この刀伊襲来は新羅海賊(あるいは後継の高麗の勢力)の再来と解されていた。それほどまでに対新羅(高麗)への脅威が大きかった。 さらに王朝貴族には、大陸情勢の中で国力の劣等意識もあった。かつての新羅への負の記憶は刀伊戦での捕虜に高麗人がいたことで、来襲の主体に明瞭さを欠き、高麗の犯行と解する向きもあった。 隆家が対馬方面に向かった武者たちに、「新羅ノ境ニ入ルベカラズ」と訓令を与えたのも、右に述べた事情が伏在していたはずだ。 ちなみに、この時期を含め、わが国の版図の認識は漠然とながら存在した。北は陸奥国の外ヶ浜から南は九州の南西海上の鬼界ヶ島だ。 いうまでもなく琉球そして蝦夷地が領域化されるのは近代以降である。王朝時代を含めての北と南の範囲として、『曽我物語』の源頼朝・安達盛長の夢のエピソードを持ち出す必要もあるまい。 源頼朝が見た夢は、左の足を広げて外ヶ浜と鬼界ヶ島を踏みつけ、両袖に日月を入れ、南に向かって歩むという、天下統合を暗示するものであった。 その点では、王朝貴族が共有する版図として、実録(日記)に西の境を対島・壱岐としているのは興味深い。 *本稿は、『刀伊の入寇-平安時代、最大の対外危機』の一部を再編集したものです。
関幸彦
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