続投を宣言したハリルホジッチ監督の退任騒動の舞台裏とは?
試合後に漏らした意味深な言葉は、つまりは一部メディアへの“当てつけ”だったわけだ。緊急会見の席上では、さらに強烈なパンチを放ってもみせた。 「とある方々にとっては残念かもしれないが、私はここで仕事を続ける。いつかこの美しい国を去ることになれば、誇りを感じながらになるだろう」 衰えることを知らない、燃え盛るマグマのようなエネルギーは、ワールドカップ・ロシア大会が開幕する来年6月までに残された日々へと向けられる。 1990年から指導者としてキャリアをスタートさせたなかで、その名前をもっとも知らしめたのは2011年から指揮を執り、ワールドカップ・ブラジル大会で同国史上初となるベスト16へ進出したアルジェリア代表時代となる。 「私がアルジェリア代表に行ったときのFIFAランキングは52位だったが、3年間、私と仕事をして17位まで上昇した」 2015年3月の日本代表就任監督でも発した数字の推移を、あらためて最新のFIFAランキングで44位の日本へも当てはめた。 「トップ10に入らせたい。楽観的すぎる発言なのかどうかはわからない。それでも私は大国と呼ばれる強豪国へのコンプレックスをなくし、自分たちへの自信を植えつけたい」 ブラジル大会ではグループリーグ、決勝トーナメント1回戦の4試合ですべて異なるフォーメーションと選手起用で旋風を巻き起こした。戦い方の基準は、対戦相手の特徴によってガラリと変わる。 難敵・オーストラリアを微に入り細をうがったスカウティングで丸裸にしたように、今年12月の本大会の組み合わせ抽選後から徹底的な情報戦を開始。格上の対戦相手のストロングポイントを消し去る変幻自在な戦い方と、それらを実践できる選手たちをスタッフ総出でチェックしていく。 当面はベースとなる球際の強さ、指揮官がよく唱えるフランス語の「デュエル」をアジアの仕様から世界のそれへと磨き上げていく。大陸予選で1位突破を果たした国々とのマッチメークが可能になる11月の国際Aマッチデーでは、ヨーロッパを候補に海外へ遠征する青写真を描く。 「現時点の状況では、ワールドカップで結果を残せないと思う」 一夜明けた会見で、ハリルホジッチ監督はこうも語った。もちろん、戦わずして白旗をあげたわけではない。要は9ヶ月後には、日本代表の姿が変わっているかもしれないということ。 「ワールドカップで戦えない、という意味ではない」 稀代の戦術家の異名をもつ指揮官は、不敵な笑みを浮かべて1時間を軽く超える記者会見を終え、数時間後にはアジア最終予選の最終戦が行われるサウジアラビアへ向かう機上の人となった。 (文責・藤江直人/スポーツライター)