「少々残酷だとは思ったが」一般メディアがプロレスを相手にしなくなった原点「力道山vs.木村政彦」戦で食い違った両者の言い分
「日本人のヒーロー」であり続けることの疲れ
『力道山がいた』など、プロレスに関する著書も多い作家・村松友視は解説する。 「プロレスがあそこまでブームになるとは誰も想像していなかったのに、ビジネスとしての可能性を見出した力道山は、やはり天才だった。ただ、植民地時代の朝鮮から来た朝鮮人の力道山に対して、『純日本人のヒーロー』を作りたいという勢力があったはずだ。そのことは、東富士の登場などにもうかがえる。力道山も晩年、望郷の念を強めていたようで、『日本人のヒーロー』であり続けることに疲れを感じていたのではないか」 力道山の“出生の秘密”に触れることは、生前はもちろん、死後もしばらくはタブーだった。本人も、側近や身内にさえ話すことはなかったといわれる。ようやく最近になって、書籍や映画で真実が語られるようになったほどだ。 日本一の武道家を破った希代の豪傑レスラーは、民族問題を心中に抱えながら、最後まで虚虚実実の駆け引きを演じようとしていたのかもしれない。 菊地正憲(きくちまさのり) ジャーナリスト。1965年北海道生まれ。國學院大學文学部卒業。北海道新聞記者を経て、2003年にフリージャーナリストに。徹底した現場取材力で政治・経済から歴史、社会現象まで幅広いジャンルの記事を手がける。著書に『速記者たちの国会秘録』など。 デイリー新潮編集部
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