青木さやか「愛犬おっぽが亡くなって1年が過ぎた。わたしは今もあの時の悲しさを閉じ込めたままにしているんだと感じる」
青木さやかさんの連載「50歳、おんな、今日のところは『……』として」――。青木さんが、50歳の今だからこそ綴れるエッセイは、母との関係についてふれた「大嫌いだった母が遺した、手紙の中身」、初めてがんに罹患していたことを明かしたエッセイ「突然のがん告知。1人で受け止めた私が、入院前に片づけた6つのこと」が話題になりました。 今回は「愛犬おっぽを見送った人として」です。 【写真】つぶらは瞳で、何か言いたそうなおっぽちゃん * * * * * * * ◆色々な人に可愛がっていただいた おっぽ(トイプードル)が亡くなって1年が経った。 何度かその事を書こうかな、と思って書き進めたけれど、思い出すと辛くなってやめた。 1年経って、こう書き始めても、あの時の悲しさを閉じ込めたままにしているんだと感じる。 おっぽは、色々な人に可愛がっていただいた。 17年前には、『天才!志村どうぶつ園』という番組でわたしと共に出演した。食いしん坊で芋好きなおっぽが、立ち歩きしながら芋を欲しがる姿は、きっと多くの人を楽しい気持ちにさせたことだろう。 わたしが居ない時は、シッターさんに大変お世話になったし、後輩や友人にもおっぽと仲良くしてもらった。 娘が生まれてしばらくしてから、おっぽは実家へ預けることにした。前の旦那とおっぽの折り合いが悪く(人と犬でもそういうことはあるのだな、と思った。どちらが悪いわけでもないと思う)わたしが仲をとり持てず、まずはわたしと旦那の仲をどうにかせねば、といっぱいいっぱいだった。
◆20時には寝て朝5時に起きる健康犬に そのあと頑張っだが離婚して、ならばおっぽを引き取ろうかと思ったが、既におっぽは祖母と生活リズムを合わせて20時には寝て朝5時に起きるという健康犬になっていた。一日のほとんどを家で過ごす祖母といたほうが幸せだろうなとも思った。祖母とおっぽは仲良くなっていたが、それでも、わたしが実家へ行けば気の毒なほど、おっぽはしっぽをふった。 わたしはその後、肺がんが見つかって手術をしたり、再度いっぱいいっぱいの日が始まって、おっぽのことを忘れる日が続いた。 5年前に母が亡くなり、90を超えた祖母だけでは犬の散歩は難しい、ということで、実家のある愛知県までクルマでおっぽを迎えに行くと、祖母が言った。 「おっぽがいなくなると寂しくなるわ」 「また連れてきますから」 「おっぽは、寒かったり暑かったりすると散歩にいかないでかんわ」 「あ、そうなんだ」 「やーらかいものしか食べんよ、歯が悪いから」 「犬は、歯で噛んで食べるわけじゃないから、歯がなくても何でも食べるらしいよ」 「やーらかいものしか食べんよ、おっぽは。歯が悪いから」 「柔らかいものしか食べない。わかりました」 「おっぽと、私と、どっちが先に死ぬかね?」 「わかりません」 「おっぽも年寄りだけどね、私も年寄りだからねえ、もうあんたと会うのも最後かもしれんがね」 「来月またきますから」 「なに?耳が遠いで聞こえんわ」 「さようなら!」