青木さやか「愛犬おっぽが亡くなって1年が過ぎた。わたしは今もあの時の悲しさを閉じ込めたままにしているんだと感じる」
◆「おっぽだよ、仲良くしてね」 もう会うのは最後かもしれんという同じ会話を10年間してきた。 東京まで約5時間。おっぽの負担にならないようにとノンストップで行こうと決めて、娘は後部座席に座り、おっぽを膝に抱いた。道中、おっぽに2人で言い聞かせた。 「うちには黒いネコと白いネコがいるよ、仲良くしてね」 祖母と同様おっぽも耳が遠いので聞こえていたのかはわからない。 家に着くと、2匹のネコはまん丸な目を更にまん丸にさせて、おっぽをみた。白いネコはさほど気にしなくなったが、黒いネコは、おっぽにゆっくりと近づいてきた。 「おっぽだよ、仲良くしてね」 と、わたしが言うと、無視して勢いよく手を出した。猫パンチを喰らわされたおっぽは驚いてわたしの膝に飛び乗ってブルブルと震えた。 「やめなさい!」 と言って、おっぽを抱き上げた。 ネコからすると、あとからきた初めてみる犬が、わたしと娘に大切にされるのが嫌だったのだろうか。毎日毎日、ネコは犬をみると、 「お前まだいたのか!」 と新鮮に驚いた。 その度に、「おっぽはずっといるから!家族だから!もう頼みますよ!」 と、ネコを抱き上げて伝えた。 そのうち、おっぽもネコも、何かを諦めたようで、なんとなくお互いに馴染んできた。もしかしたら、おっぽは耳も目も悪くなってきたから、特に何をされても気にならなくなってきたのかもしれないし、ネコも猫パンチをするが決して犬に当たらないように、お年寄りに手加減するようになったのかもしれない。 おっぽは17歳になって一日の大半をベッドで寝て過ごすようになっていた。
青木さやか