「もしトラ」への備え?習近平氏「5年ぶり訪欧」の思惑 なぜフランス、セルビア、ハンガリーだったのか
■4年前に失ったメンツ回復のリベンジ外交に 中国は2020年夏、王毅外相を欧州に送り込み、懸案となっていた欧州連合(EU)との包括的投資協定(CAI)締結による新たな経済関係構築の最終の詰めを行おうとした。 ところが中国の思惑はハズレ、香港の民主化抗議デモや新疆ウイグル自治区のウイグル族への弾圧について、中国政府のこれまでの人権弾圧への批判が予想以上に強く、欧州議会も翌年、協定締結を凍結し、中国のメンツは潰された。
5月5日からの習近平国家主席のフランス、セルビア、ハンガリーの3カ国歴訪は、コロナ禍後のウクライナや中東紛争で激変した世界情勢を踏まえ、中国が4年前に失ったメンツ回復のリベンジ外交ともいえるものだった。習氏の訪欧は5年ぶりだ。 中国が2020年に欧州から冷や水を浴びせられた原因の1つは、経済大国にのし上がった中国が人権無視などの内政に対する欧州の批判を「内政干渉」と一方的にはねのけ、上から目線で欧州外交を展開したことだった。しかし、自由と民主主義、人権、環境に関して強い信念を持つ欧州を、経済力でひざまずかせることの難しさを学習した。
今回は習氏自らが訪欧することで、欧州の中でも人権や環境にうるさいフランスに礼儀を払い、従属させやすいセルビアやハンガリーを利用してEUに切り込むための首脳外交の足固めだったように見える。 2025年のEU加盟を最大の国家目標に掲げるセルビアは、「一帯一路」(中国の巨大経済圏構想)で中国と急接近している。ハンガリーはEU加盟国の中では、対ロシア制裁に消極的で、中国からの投資にもオープンだ。 また中国と対立するアメリカでは、トランプ前大統領の再選の可能性が出てきている。自国第一主義のトランプ政権が誕生した場合、同じ自国第一主義の中国は、アメリカと距離を置き自律外交を展開するフランス、国益最優先の親中のセルビアやハンガリーとしっかりした信頼基盤を築いておきたいという思惑も透けて見える。