「真似する」川崎フロンターレ、高井幸大はスペインに大きな刺激を受けた。「『上手だな』と思いながら…」【コラム】
⚫️「意識していたら入っていました」盟友から奪った完璧なゴール
敵陣中央の左サイドで、DF三浦颯太がFW遠藤渓太に倒されて獲得した直接フリーキック。左利きの三浦がキッカーとしてスタンバイするなかで、高井は相手の両センターバック、土肥幹太と岡哲平にはさまれるようなポジションを取っていた。もちろん、このときから駆け引きははじまっていた。 三浦がインスイングのクロスを放った瞬間に、高井は助走をつけながら、自身から見て左側にいた岡の眼前に回り込んだ。そして、迷わずにダイブすると、空中で身長192cm体重90kgの巨躯を思い切り伸ばす。後手を踏んだ状態になった186cm83kgの岡は、もはやこの時点でなすすべがなかった。 まだ記憶に新しいパリ五輪をともに戦った盟友、FC東京のGK野澤大志ブランドンも飛び出せない。高い打点から放った、ダイビングヘッドからの完璧なゴールを高井は独特の言葉で振り返っている。 「うまく相手選手の間に入り込めて、枠に入れることだけを意識していたら入っていました」 さらに「ものすごいジャンプ力だった」と問われた高井は、ちょっぴりはにかみながらこう続けた。 「そこまで難しいシュートではなかったので、はい」 敵地・駅前不動産スタジアムに乗り込んだ、5月15日のサガン鳥栖戦以来となる2ゴール目。もっとも、右コーナーキックのチャンスでニアに回り込み、頭で豪快な先制ゴールを決めたこの試合は、前半のうちに連続で3失点を喫するなど、最終的には2-5のスコアで屈辱的な逆転負けを喫していた。 「勝利に貢献できる得点が一番ほしかったので、よかったと思っています」 ダメ押しとなった自身のゴールを喜んだ高井は、パリ五輪を戦ったフランスから帰国後で初めて出場した一戦となった、3万7452人の大観衆が詰めかけた多摩川クラシコを「楽しくできた」と振り返った。
⚫️「一番大事なところ」謙遜の裏には確かな信念
「たくさんお客さんが入ったなかで、無失点で終われたところと、1点を取れたところがよかったです」 25分に訪れた、あわや失点のピンチを防いだのも高井だった。MF仲川輝人の突破を食い止めたDF佐々木旭が、こぼれ球を収めた直後だった。プレスをかけてきたMF小泉慶をかわそうと、佐々木がヒールでMF大島僚太へつなごうとしたパスを小泉がとっさにカット。はね返ったボールが仲川にわたった。 佐々木のやや軽率なボールロストから得たチャンス。FC東京がすかさずショートカウンターを発動させ、仲川からFWディエゴ・オリヴェイラにスルーパスが通った。J1通算で90ゴールを決めているブラジル人ストライカーがペナルティーエリア内へ侵入し、シュートを放つ体勢に入った直後だった。 白色の川崎のユニフォームを着た選手が、瞬く間にオリヴェイラとの距離を詰めてくる。佐々木がボールを失った時点で危機を察知し、カバーに走ってきたのは高井だった。最後は乾坤一擲のスライディングを仕掛けてオリヴェイラのシュートを右足でブロックし、ボールをゴールラインの外へ弾き飛ばした。 「最後に体を張るところは、ディフェンダーにとって一番大事なところだと思っているので、あそこで足を出せてよかったなと思います。まあ、たまたま間に合った、という感じですかね」 ここでも謙遜した高井だったが、山田のJ1リーグ史上で9人目となる、3試合連続のマルチゴールで2点のリードを奪った5分後という状況を考えても、ファウルなしで失点を防いだプレーの価値は大きい。それでも、前半はピンチを招いた試合展開に、高井は自戒の念を込めながらこう語っている。