「暗闇の世界に一筋の光」性暴力に遭った女性が感激 歴史的な「刑法の性犯罪規定」改正(後編)「同意しない意思」の価値
法制審議会で刑法見直し試案が示された2022年10月。試案の内容を取材している途中に、約10年前に受けた被害が初めてフラッシュバックした。 取材先に受けた性暴力。自分がされたことがすぐには理解できず、体中が「気持ち悪い」という感覚に襲われ、帰宅後すぐにシャワーを浴びた。体の傷にお湯がしみた時、受けた行為のひどさを感じ、パニックになった。「拒まなかったんだろう」「そんな取材手法をしているのか」。決してそんなことはない。けれど、そう責められるのではと思い、頭から消し去った記憶だった。 今回の改正は、性犯罪の「暴行・脅迫」といった従来の処罰要件を「同意しない意思」の表明などが困難になった場合に改め、具体例として条文に8項目を示す。「拒絶するいとまがない」「アルコール」「社会的地位による影響力」…。取材中、それらの記載を目にした瞬間、一つ一つが無意識に記憶と重なった。場所、光景、体の痛み。被害時の断片的な場面が、ガラスの破片のように降り注いだ。目の前が真っ暗になるような感覚に襲われ、その日どうやってその取材を終えたのか、どうやって帰宅したのか、はっきり覚えていない。唯一思い出せるのは、取材を終えた瞬間、泣いていたことだ。
もう、この取材をやめたい。そんな時寄り添ってくれたのが、「Spring」で当時代表理事だった佐藤由紀子さんだ。幼少期、親族から日常的に性虐待を受け、28歳でフラッシュバックを経験していた。 「つらい時は軽くジャンプするといいですよ。地面を踏みしめると、今自分がしっかり生きていると感じられるから」。佐藤さんはたくさんアドバイスをくれ、いつもこう言葉を添えてくれた。 「あなたは悪くない」 佐藤さんが忌まわしい記憶と対峙しながらも活動してきたのは、性暴力を許さない社会を実現したいという願いからだ。当事者が上げた声は「フラワーデモ」として新たに被害を打ち明ける連鎖を生んだ。痛みを語るのはどれほどつらかっただろう。記者はフラッシュバックを経験し、その勇気を思い知った。 「同意のない性行為は犯罪だ」とのメッセージを打ち出し、大きな意義のある改正。しかし、今回の改正はゴールではない。自責の念や羞恥心から、被害申告には時間が必要だ。当事者団体は今回の時効延長に加え、さらなる延長を求める。また、スウェーデンのように、積極的な同意を得ていなければ処罰される規定(「イエス・ミーンズ・イエス」型)を目指すべきだとの声もある。