「暗闇の世界に一筋の光」性暴力に遭った女性が感激 歴史的な「刑法の性犯罪規定」改正(後編)「同意しない意思」の価値
さらに18歳の頃には、医療現場で手術を受けた際、医師や研修生らから、必要もないのに全裸にされた。麻酔が効く直前に何かを突き立てられ、激痛で悲鳴を上げた後の記憶はない。ただ、体に残った異常な腫れと感覚は鮮明に覚えている。 「ショックと混乱で抗議できなかった」。その後、心的外傷後ストレス障害(PTSD)による「希死念慮」に襲われ、自殺を図るほどの絶望の中、その時の記憶を封じた。「性暴力だった」と認識できたのは、被害から25年以上後になってから。 「気がついた時には時効なんて過ぎていて、あれが被害だとすら認められない。絶望的だった」 今回の法改正についても、議論の段階では被害の実態に合ったものになるかどうか、心配しながら身守った。中でも、特に「強固な壁」だと感じていたのは罪名。強制性交罪を「不同意性交罪」に改正させるのは難しいと感じていた。 それだけに、法制審がまとめる要綱の試案の段階で「同意しない意思」という文言が提案された時は感激したという。
涙ながらにこう振り返る。 「すごいものが出てきたと、一筋の希望の光が差した。これまで言い続けてきたことを聞いてくれる人がいる、救われるような思いがした」 金子さんだけでなく、被害者の多くはこれまで、「拒否しなかったのではないか」といった、いわれなき偏見に苦しめられてきた。だからこそ、改正の意義をこう感じている。 「今まで被害者の声を封じ、加害者の存在を『見えないもの』にしてきた価値観を打ち砕くことになる。被害者に責任転嫁してきた社会を変えるものだと思う」 ▽ここからは「運用」が重要に 刑法の性犯罪規定は6月に改正法が成立し、一部を除いて7月に施行された。 施行後に重要となるのが、実際の捜査や裁判の場での「運用」だ。どのように運用されるか、被害実態に即した適用がされるかどうかだ。 立命館大の嘉門優教授(刑法)が注目するのは、バランス。 「運用には、被害実態に即して処罰すべきものがもれてしまわないことと、不当に処罰が広がらないことの両立が求められる」