第12回ヒロシマ賞受賞はメル・チンに決定。「複雑な社会問題への市民意識を喚起する」
第12回ヒロシマ賞の受賞者として、アメリカの現代アーティスト、メル・チンが選出された。 この賞は、美術を通じて核兵器廃絶と世界恒久平和の実現を目指し、1989年に広島市が創設。3年に1回授与される同賞は、人類の平和に貢献した作家を顕彰するものとして過去11 組のアーティストが受賞している。2026年夏には授賞式と受賞記念展が開催され、メル・チンの多彩な作品群が広島市現代美術館で展示される予定だ。 メル・チンは、彫刻、絵画、インスタレーションからビデオゲームまで幅広いメディアを用いて、環境問題や社会問題に深く切り込む作品を制作してきた。その活動は、地域住民との共同作業や科学的アプローチを取り入れ、アートを通じて社会意識を喚起し、新たな価値観を提示することに注力している。例えば、その代表作《リヴァイヴァル・フィールド》(1991-)では、土壌汚染を植物を用いて修復する実験を行い、環境保護の新たな可能性を示した。また、作品《安全な家》(2008-10)ではハリケーン・カトリーナ後のニューオーリンズで鉛汚染に取り組む運動を象徴するアイコンとなる家を制作し、社会的責任を伴う芸術活動の意義を広めた。 メル・チンの作品は国際的にも高い評価を得ており、光州ビエンナーレやリヨン・ビエンナーレなどの国際展に参加しているほか、アメリカ国内外での大規模な回顧展でも注目を集めている。今回の受賞理由は、「その活動に地域住民を巻き込むことで、複雑な社会問題への市民意識を喚起することを探求してきたことは、ヒロシマ賞の主旨に沿うものであり、また、同氏の展覧会の開催を通じて『ヒロシマの心』を広く全世界にアピールすることが期待される」という点にある。 受賞にあたり、メル・チンは「この栄誉は言葉では言い尽くせない」としつつ、次のようにコメントしている。「米国市民である私は、紛れもない共犯行為を余儀なくされている。ヒロシマ賞は、この弁解の余地なき残虐行為を支持せず、加担に抗う決意を強固なものとしてくれる。さらに、複雑なアイデアや関係性を発展させ、暴力への抵抗と共感の輪の拡大に通じる理想を追求する手段とすべく全力を尽くすよう私を促してくれる」。 ヒロシマ賞の創設以来、この賞は平和と芸術の架け橋として機能してきた。これまで三宅一生やロバート・ラウシェンバーグ、蔡國強、オノ・ヨーコ 、モナ・ハトゥムらが受賞している。前回(2018年)は、チリ出身のアーティスト、アルフレド・ジャーが受賞した。