展覧会「ガラスの器と静物画」山野アンダーソン陽子インタビュー
一人の作家が始めたことが、思いもよらぬ方向へと広がり続ける。現在、東京オペラシティアートギャラリーで開催中の展覧会「ガラスの器と静物画 山野アンダーソン陽子と18人の画家」は、まさにそんなアートプロジェクトだ。 始まりは2018年。スウェーデン在住のガラス作家・山野アンダーソン陽子は、自らのアートブックを作ろうと、山野が作ったガラスの器を18人の画家が静物画に描くプロジェクト「Glass Tableware in Still Life」のアイデアを思い立つ。コミッションでもなく、クライアントもいない、完全な自主プロジェクトだ。山野が自ら画家を探し、話を持ち掛け、彼らと言葉とイメージを通じた膨大な対話を重ねた末に、ガラス器と静物画の作品が生まれた。 これらのガラスの器と静物画、そして写真家の三部正博が画家のアトリエで撮り下ろした写真などで構成される本展は、空間全体でアーティストたちの物語をつむぐような展覧会になっている。 すでにアートブックはtorch pressから昨年出版され、プロジェクトのプロセスを山野らしい生き生きとした文章で綴ったエッセイ『ガラス』も好評だ。多方向に展開するプロジェクトの一部である展覧会とは？インタビューでその醍醐味を語ってもらった。
絵画とガラスのズレを楽しむ
──このプロジェクトは、山野さんが画家にリクエストし、それをもとにガラスの器を制作、今度は画家がその器を描くという複雑なプロセスを踏んでいます。山野さんがキャリアを通して作り続けている透明なクリアーガラスを描いてもらったことで、新たな発見はありましたか？ 画家には、自分の思うガラスを描いてくださいと依頼していたので、写実的にそのまま描かれることは期待していませんでした。ただ、実際出来上がった作品を見ると、現実世界では成立しないガラスが絵の中にあって、それがとても面白かったです。 例えば小笠原美環さんからのリクエストは、「しずくが細長く伸びて落ちている瞬間」「スローモーション」といったものでした。しずくの形を表現したくて頑張ったのですが、器として自立するにはどうしても底を平にしないといけない。何度も挑戦して、やっと求めるラインを作ることができました。その後、小笠原さんが描いてくれた絵を見ると、ガラス器の底が真ん丸に描かれていたんです。聞いたら、「絵やからできるんだけどね、この絵の中では底の部分を丸くしたんよ」と。そういうズレがすごく面白いなと思っています。 他にも、マリーア・ノルディンの作品にも驚かされました。彼女からは「できる限り安定感のあるドリンキンググラス」というリクエストをもらい、水の入った背の低いドリンキンググラスが、テーブルが揺れて中の水もこぼれているのに、倒れずに頑固に佇んでいる映像を思い浮かべました。そこで、トップからボトムまで厚みをほぼ同じにしたグラスを作って渡したんです。 出来上がったのは、ハイヒールを履いた女性がグラスを踏んでいる絵でびっくり（笑）。まったく想像していなかった状態に、「グラスの安定」ってこういうことだったのか！と新鮮でした。
