展覧会「ガラスの器と静物画」山野アンダーソン陽子インタビュー
展示だからこそ、感じられること
──「アートブックを作ること」から始まったこのプロジェクトですが、展示にはどんな違いがありますか? アートブックには、画家のアトリエにある絵やガラス器をその場の空間ごと写した三部さんの写真作品を載せていて、絵画の図版は載せていません。なので、当たり前ですが実際の色味や質感とも異なったように写っています。展覧会では、絵画も写真も物質感や寄って見た時のマチエールなど、細かいところまで見ることができる。その醍醐味は大いに感じますね。 ──実際に展示されたガラス器は、やはり本で見るのとは違いますか? もちろん違います。私の吹きガラスは一見すると表面が均一につるつるしているように見えるのですが、実際は膨らませた時の、皴のような厚みの違いがほんの少しだけあります。展示では、それがわかるように照明を当ててみました。影にはその皴も映っているし、ガラスが光をため込む様子もよくわかります。なので、絵画も写真もガラスも、実物を自分の目で見るという点で、アートブックとはまったく異なる経験になっていると思います。
ガラスは熱くて溶けているもの
──最初の展示室に、巨大な映像が投影されているのも印象的です。 スウェーデンの映像作家のセンナイ・ベルへに依頼して作ってもらいました。私は、ガラスが実際は熱くて液体状のものだということを伝えたいとかねがね思っていて、彼にもそのことを伝えました。ほとんどの人は、ガラスは冷たくて硬いものというイメージを持っています。ですが、日々制作している私からすると、ガラスは1200℃というものすごい高温のどろどろした物質。だから、色のイメージも青というよりは赤なんです。 映像には私のガラス制作風景が写っていますが、この物質感をとりわけ強調するような映像と編集になっています。サウンドも一風変わった面白いものになりました。 ──どの作品も、一般的なガラスのイメージとはちょっと違う表現をされていますね。 そもそもガラスは透明で、絵にも描きづらいし、写真も映り込みが激しいから撮りにくいので、モチーフにするのを敬遠する作家も多いと聞きます。今回関わってくれた画家、写真家、映像作家も、ここまでガラスに向き合ったのは初めてなはず。写実的にトレースするのではなく、ガラスってどんなものなんだろう?と考えに考えてくれたことが、どの作品からも伝わってきて、すごくうれしかったですね。