展覧会「ガラスの器と静物画」山野アンダーソン陽子インタビュー
対話を展示のかたちにする
──アートブックを作る段階から、18人の画家、写真家の三部正博さん、デザイナーの須山悠里さんと、数多くの人が関わり、無数の対話によって作品が生まれていった経緯が、エッセイ『ガラス』には詳細に書かれています。そして、展示にするとなって、新たに関わる人が増えたと思います。具体的にはどのようなコミュニケーションのもと作っていったのでしょうか? アートブックを作っていた時は、画家、写真家、デザイナーそれぞれのプロフェッショナルを発揮してもらうためにも、オーダーは最小限にしました。展示も同じで、やはり各会場の学芸員の方たちが一番プロなので、彼らにまとめ役を担ってもらうことにしました。先に開催した広島市現代美術館では、須山さんと学芸員の竹口さんを中心に会場構成を作っていきましたが、今回のオペラシティアートギャラリーの会場は学芸員の福島さんを中心に構成し、プロジェクトの中での関係性や対話に注目しています。なので、『ガラス』からピックアップした言葉を会場に点在させています。言葉があることで、より絵画とガラスのつながりが伝わるようになったと思います。 ──最後の廊下に三部さんのスナップ写真が並んでいるのも、今回出たアイデア? そうです。オペラシティアートギャラリーでの一つ前に開催していた「石川真生 ─私に何ができるか─」展で、この廊下に略歴が貼ってあったのが、とてもいいなと思って。プロジェクトの経過がなんとなく伝わるようなスナップを時系列で並べることにしました。一つのプロジェクトではありますが、巨大なインスタレーションではないので、スペースになじむように、都度変えていけばいいと考えています。
どうする?から始めて、迷いながら作る
──とはいえ、その都度話し合い、変えながら作っていくのはなかなか難しいですよね。 目標とする形がはっきりとあるわけではないので、時間はものすごくかかります。例えば、友達とごはんを食べに行こうとなった時に、和食とかイタリアンとか決まっていればアイデアも出しやすいけど、何食べる?から考えると、うーんってなっちゃいますよね。それと同じで、長時間話しても進まなかったミーティングもあったし、考えることに飽きちゃう瞬間もありました。でも、効率良くできることが、いいクリエイションではないんです。よく言えば自由、その代わり自分が出したアイデアや発言には責任が伴う。なかなか厳しいやり方ですが、作家もスタッフもよく理解して取り組んでくれました。まさに関わる人全員で民主主義的に話し合いながら作り上げていった感じです。 ──これから展示を見る人に向けて、メッセージを。 今話したように、出来上がりを想定して進んできたプロジェクトではないので、皆さんにも自分なりの受け止め方で見てもらいたいですね。唯一言えるとしたら、この展示を通して、普段使っている、あるいは目にするガラス食器に対して、もう少し意識を向けてくれるようになったらいいな、ということでしょうか。ガラス食器は簡単に手に入れやすくもあり、どうやって作られたかとか、どういう物質なのかとか、ほとんど意識しないと思うんです。でも、一度意識し始めれば、街でも家でも気になってくるんじゃないかと。そうやって、多くの人が考え、ガラス食器に向き合ってくれることが、いずれガラスの産業自体を変えるかもしれない。そんな壮大な夢のようなことを期待しています。 --------------------- 山野アンダーソン陽子 やまの・あんだーそん・ようこ スウェーデンのストックホルムを拠点に活動するガラス作家。日本の大学を卒業後、北欧最古のガラス工場であるコースタ内の学校で吹きガラスの手法を学び、その後スウェーデンの王立美術工芸デザイン大学にて修士課程を修了。クリアーガラスを探求し、スウェーデン、イギリス、日本などで作品を展開する。 ----------------------- ガラスの器と静物画 山野アンダーソン陽子と18人の画家 東京オペラシティ アートギャラリー 開催中~3月24日[日] 開館時間_11:00~19:00(入場は18:30まで) 休館日_月曜日(祝日の場合は翌火曜日)、2月11日[日](全館休館日) -------------------------- Interview and Text_Satoko Shibahara Photo_Masahiro Sambe
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