東アジア情勢の流動化に考えるインドの地政学的な位置
文化的裏同盟
かつて田中角栄元首相は、日米安保を表同盟とすれば「日中関係は裏同盟だ」といったそうだ。*4 中国包囲網という考え方が正しいかどうかは別として、現在の日本にとっては、インドとの関係が「裏同盟」的な意味をもつのではないか。ただしそれは軍事的、経済的なものではなく、文化的な同盟であるべきだろう。 日本はアメリカとの同盟を軸に、西欧的な自由主義と民主主義を信奉する立場であるが、文化的には、西欧の価値観とまったく一致するわけでもない。たとえばカースト制などに対して、国際的な民主主義の立場から批判するとしても、文化的に完全否定する必要はないだろう。むしろ経済発展することによって、インド文化の多様性と深淵性が失われることにシンパシーを感じるべきではないか。 昨年11月中旬、インド洋に浮かぶ孤立した島の部族が、近づこうとしたアメリカ人宣教師を、弓矢と槍で殺すという事件が起きたが、15世紀以来アメリカ大陸などにおいて西欧人と先住民の文化が衝突してきたことを彷彿とさせた。 いずれにしろこの国とは、長期的かつ広大な視野において付き合いたいものだ。戦術より戦略、戦略より「超戦略」である。*5 東アジアの新しい冷戦構造を短兵急に単純化するのは得策ではない。 近くに問題があるときは遠くを見よう。 今、問題を抱えていても、遠い先のことを考えよう。国家も人間も同じことだ。 注 *1:『「家」と「やど」──建築からの文化論』若山滋・朝日新聞社 *2:THE PAGE・建築から戦争を考える(下)日本人が最も認識──虐殺戦争は人の道ではない・2018 ・8・15 *3:THE PAGE・ファーウェイ事件に見えてくる「物量のハイテク戦争」と日本の立ち位置2018・12・22 *4:『自民党本流と保守本流──保守二党ふたたび』田中秀征・講談社 *5:THE PAGE・建築から戦争を考える(上)戦争とは文化現象ではないのか・2018・8・13