「ベースボール・ファイブ」日本代表とJA職員“二刀流”島拓也主将、競技の魅力「夢」しかない
<ベースボール・ファイブとは 後編> 男女混合の手打ち野球、ベースボール・ファイブの日本代表「侍ジャパン」島拓也主将(30)に、競技のルールや魅力を聞きました。17年に生まれたばかりの新スポーツは、大きな可能性を秘めています。そこにひかれた島主将ですが、普段は東京のJAで働いています。後編では、仕事と競技を両立させている主将の横顔に迫りました。【取材・構成=古川真弥】 柔らかな笑顔は、地域密着の職場にふさわしい。JA町田市鶴川支店に入ると「いらっしゃいませ」と、丁寧におじぎされた。やはり、野球で鍛えた体はスーツでは隠せない。島主将はベースボール・ファイブのアジアチャンピオンにして、秋には世界チャンピオンになっているかもしれない。世界の舞台で戦うアスリートだ。そう水を向けたが、反応は肩の力が抜けていた。 「正直、まだ競技人口も少ないですし。なんだろう。自分の中では、楽しんでやっているイメージの方が強いです。もちろん、勝ち負けの楽しさもあるけど、そもそも試合をやるだけで面白い。結果を残さなきゃというプレッシャーがあった野球とは違う。世界でやるのと、日本でいろんなチームとやるのと、大差がないんですよ」 楽しむ-。それこそが、ベースボール・ファイブを語るキーワードだろう。野球が楽しくなかったわけではない。ただ「プロになりたい」と打ち込んだ日々とは異なる充実感がある。 小1で野球を始めた。甲子園はかなわなかったが、穎明館高で夏の西東京大会8強まで進んだ。1浪して入った桜美林大では佐々木(現DeNA)山野辺(現西武)と同期。4番を任されプロも意識したが、現実は厳しかった。首都大学リーグは好選手ぞろい。帝京大・青柳(現阪神)西村(現ロッテ)塩見(現ヤクルト)、東海大・中川、大城卓(ともに現巨人)等々。「全然違いました。他にも、うまい人はいたのにプロになれない人もいた。ちょっと無理かなと」。野球は趣味で続けることにした。 ベースボール・ファイブとの出会いは草野球チームでだった。東京五輪前の野球普及活動の一環で知り、仲間と始めた。現代表メンバーでもある、世界野球ソフトボール連盟(WBSC)公認インストラクターの六角彩子さんから指導を受け、のめり込んでいった。 新しいスポーツならではの魅力を感じている。確立したセオリーも「まだないと思います」と断言する。「私たちも、まだまだ見えてないことがある。そういったところが面白い」。昨年の国内大会で敗れ「どう得点を取って、どう守るか。私たちなりの勝ち方をかなり研究しました」。 例えば、打順。所属チームでは「男子、女子、男子、男子、女子」と組んだ。先頭の男子が出て、2番女子が進塁打で好機を広げ、3番、4番の男子2人で得点を重ねるプラン。それがはまり、2月の日本選手権で優勝した。一方、日本代表は「男子、男子、女子、男子、女子」と組む。まずは男子2人で一気に好機を広げる作戦だ。個々のレベルが上がる代表だからこそ。「1、2番が出たら3番の女子が送り、4番の男子でかえす。5番の女子が仮に凡退しても、また男子が2人続く」という狙いが当たり、アジアカップをものにした。 もっとも、世界は広い。昨年の第1回ワールドカップで優勝したキューバの打順は「男子、男子、男子、女子、女子」。実際に対戦した島主将は「もう男子3人がえげつない。女子2人でアウトを取れても、また男子3人が続く」。圧倒的な攻撃力の前に、決勝はストレート負け。研究の余地は十分ある。 JAでは融資を担当しており、お客との話題にも役立っている。そして、週末がくれば練習に打ち込む。「まだまだ自分のポテンシャルに気づけると思う。大人になっても向上心を忘れないように。夢が詰まったスポーツです」。そう話す顔は真剣で、また心から楽しそうだ。(この項おわり)